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編集部レポート#001 横浜メディカルグループ主催 カンフォータブル・ケア研修会(@菊名記念クリニック講堂)

2024年5月30日(木),横浜メディカルグループ(YMG)さんがグループ全体に向けて開催されたカンフォータブル・ケア研修会に編集部がおじゃましました。
講師はカンフォータブル・ケアを提唱し,カンフォータブル・ケア普及協会の代表でもある南敦司先生。集まったのはグループの職員さん50名以上,多くの参加者の方にお集まりいただいたことにはカンフォータブル・ケアへの期待の強さが感じられます。今回はそんな研修会の様子をレポートします。

菊名記念クリニック講堂で開催されたカンフォータブル・ケア研修会には50名を超える参加者が参集した(写真は南氏)

まずはカンフォータブル・ケアの基本から

カンフォータブル・ケア。もはや言わずと知れたと述べたいところですが,改めて説明しますと,南敦司先生が提唱した「心地よい刺激を中心にしてかかわる認知症ケア」の技法をいいます。このカンフォータブル・ケアを日々のケアのなかで行えば,「天然の抗認知症薬になる」と南先生は仰っていました。
当日,午前はカンフォータブル・ケアの基本,午後は行動制限最小化と認知症看護と分けられて研修が行われました。
講義はまず認知症ケアの歴史から始まり,カンフォータブル・ケアとは,大脳生理,認知症の周辺症状について説明がありました。この基本的な知識の理解があるとないとでは,カンフォータブル・ケアの実践しやすさ,効果の実感しやすさが変わってきます。
続いて本丸のカンフォータブル・ケアの技術についての説明です。カンフォータブル・ケアの技術は以下の10個にまとめられています。

①いつも笑顔
②いつも敬語
③目線を合わせる
④やさしく触れる
⑤ほめる
⑥謝る態度を見せる
⑦不快なことはすばやく終わらせる
⑧演じる要素をもつ
⑨気持ちに余裕をもつ
⑩相手に関心を向ける

カンフォータブル・ケアで変わる認知症看護

「①いつも笑顔」では,実際に席の隣同士で向かい合って笑顔の練習をしました。顔を合わせて照れたような「うふふ……」という小さな笑い声が会場のあちこちから聞こえます。笑顔のコツは,あくまで客観的に「笑顔」だとわかるように表情をつくること。自分のなかでは笑顔のつもりでも,他人からは笑顔に見えなければ意味がないということは南先生が繰り返し伝えられていました。
そのほか詳細の解説はぜひ書籍をご覧いただきたいのですが,カンフォータブル・ケアの何がすばらしいかというと,実際の行動に移せることなのではないかと編集部は考えています。笑顔の練習は職員同士でもやりやすいでしょうし,何よりも見てわかりやすい。
もし自分のいる環境のなかで何かを変えようとしても,理念が先行して具体的な行動ができなかったというのはよくあることかと思います。また,「いやいや忙しい現場で,そう簡単にはできないよ」といった声もあることが想像できます。しかし,カンフォータブル・ケアによって,患者さんは穏やかに過ごせる,医療者もケアの実感を得ることができ,次のケアを前向きにとらえられる。このような良い相乗効果があると考えてみれば,「やってみよう」と背中が押されるのではないでしょうか。

行動制限最小化と認知症看護

続いて午後の行動制限最小化と認知症看護について。行動制限最小化とカンフォータブル・ケアのつながりに疑問を抱く方もいるかもしれません。ただ,認知症看護で「快刺激」を中心に考えるうえで行動制限は「不快」なこと,つまり避けるべきことです。
南先生は認知症者に対する行動制限の弊害について以下のように話します。まず身体的な側面では,関節拘縮・筋力低下によって「歩けなくなる」,消化機能の低下によって「食べられなくなる」,循環器障害による「突然死のリスク」,免疫力の低下による「感染症のリスク」。精神的な側面では「周辺症状(BPSD)の悪化」,脳への低刺激状態が続くことによる「中核症状の進行」,不必要な投薬による「副作用・過鎮静」。社会的な側面では,当事者の「人格無視」,自分自身の身内が行動制限されるという「家族の葛藤と諦め」,社会的交流が妨げられるなどの「社会認識への影響」。
認知症看護の現場は少ない人手のなかでどれだけ大変な状況であるか,理想的なケアを行うことができずに悩む医療者も多いでしょう。しかし,行動制限は当事者にとってこれだけのリスクがあり,これらのリスクを避けるためには医療者が行うケアの負担も大きくなります。それであるならば「行動制限『0』作戦」をいよいよ実施していきましょう! というのが今回のお話です。
「そんな,今でも大変なのに,新しいことを始めようなんて・・・」というスタッフからのマイナスな反応がある場合の具体的なアドバイスもありました。
それが・・・

①2,3人の協力者を得る
②行動制限解除のハードルが低い患者さんから
③毎週のカンファレンスを行う

です。

加えて,知識がなければケアはできませんので,強制しない,自主参加型の研修会をおすすめしていました。
またご家族から理解を得ることも重要です。なぜ認知症者に対して行動制限を行うかというと,転倒の危険性があるというのが最たる理由です。ご家族も「病院にいたら転倒して,けがをすることはないだろう」と思う傾向があります。そのなかで転ばせない,怪我をさせないことばかり優先すると,必然的に行動制限が1番安全ということになってしまうのです。
ここでいまいちど行動制限によるリスクを思い出してください。転ばせないために行動制限を行うと,身体的機能は低下してますます転びやすい状態になり,歩くこともできなくなってしまいます。果たしてそれはご本人とご家族が本当に望まれることでしょうか? 歩くと体は強くなります。骨密度も高くなります。転び方も上手になります。それを踏まえてご家族には転倒の可能性があるといった事前の説明を行い,同意を得ておく必要があるのです。
少しずつ準備をして,仲間をつくり,できる範囲のことをやる。自分が責任をもてるちょっとした時間に行動制限を解除する。それでもなお転倒のリスクは医療者にとって不安要素です。個人でなんとかがんばる,では限界があります。個人ではなく組織として取り組み,安心してケアを行う環境を整えることが理想的な形です。

看護師=治療環境

安心してケアを受けられる,ケアを行うことができる環境をつくることが認知症看護において重要です。それはつまり,看護師も治療環境,環境要因そのものと考えてケアを行っていくということです。
患者さんのケアが大変,看護にもやりがいがない,どうしようもないから行動制限を行う,負のスパイラルに陥っている病棟もなかにはあるかもしれません。南先生はそのような負のスパイラルに陥っている病棟は,常にざわざわした騒がしさ(患者さんと看護師の大声が聞こえる),臭い(排泄物や汚物が床などに付着している,オムツから漏れるにおい)が漂っていると話します。
カンフォータブル・ケアを進めていくと,患者さんは穏やかで活気ある様子に,スタッフはイキイキ働き,病棟に正のスパイラルが生まれていきます。病棟に入ってすぐ楽しそうな雰囲気が伝わってくるといいます。今いる病棟がどうであるか,少し振り返ってみてはいかがでしょうか。何よりそこにいるみんなが「イキイキ」「ハキハキ」「ノビノビ」「ニコニコ」できる環境が何よりということです。

より良いターミナルケアのために

ここまでさまざまな観点からカンフォータブル・ケアの講義が行われてきましたが,大切なのはこの考えではないかと思われました。
「認知症は発症から約10年かけてゆっくりと死に向かうターミナルケアである」
認知症看護での治療目標が高すぎることはありませんか? 成人の健康体と同一に考えると,当事者も医療者も苦しくなります。“できない”ではなく,「まだ○○ができる」「まだ○○しようとしている」という“できる”ことを軸にして考え,症状の緩和と苦痛の除去をめざすことが望ましいと南先生は伝えます。
研修の最後には質問時間が設けられました。質問者の方からは日々の現場の苦労や大変さをにじませながら,それでもなんとか良いケアを行いたいという気持ちがうかがわれました。そのなかでも何も変わらないと諦めてしまうより,少しの良い変化を見逃さず,小さなことに感動できる感性をもちましょうというアドバイスがありました。
実践があるからこそ実感がある。いま自分が勤めている病院で,より良いケアを行いたい,変化をもたらしたい,そう考えている方がいらっしゃったら,まず「カンフォータブル・ケア」のことを知ってほしいと思います。
先述の通り,詳しくは書籍をご覧いただきまして,さらにカンフォータブル・ケア普及協会のホームページをご覧くださいませ。

以上,編集部よりレポートをお届けしました。

▼カンフォータブル・ケア普及協会ホームページ

▼認知症介護をするすべての人のためのカンフォータブル・ケア

▼カンフォータブル・ケアで変わる認知症看護

▼精神科看護 2020年12月号(47-13) 特集 カンフォータブル・ケアを根づかせる方法

月刊『精神科看護』は便利な定期購読をおすすめします。

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