20億人の未来銀行

『20億人の未来銀行』 読書録

私が理事を務めている、特定非営利活動法人Alazi Dream Projectでは、
先月から月に1回、「国際協力読書会」というイベントを開催しています。

このイベントでは、参加者が自分の好きな国際協力関係の本をもちよって、その本の面白さや得られた学びについてシェアしたあと、それぞれが関心をもっている国際協力の課題について、みんなで話しあいます。

私自身もそれに合わせて国際協力関係の本を読んでいるので、
読書を通じて得られた学びをシェアしたいと思います。



第1冊目は、日本植物燃料(株)代表の合田 真さんが書かれた、
『20億人の未来銀行』です。

この本では、モザンビークでヤトロファという植物を栽培し、
そこからとれるバイオ燃料で発電する事業を行いつつ、
現地に電子マネーのあたらしい経済圏を作り始めた合田さんが、
どのようにして電子マネー経済圏を作るに至ったか、
それを通してどのようなことを学んだか、
について、臨場感を持って描かれています。

電子マネーというと、最近では
「仮想通貨」「ブロックチェーン」などの言葉がよく聞かれます。
しかし、合田さんが導入された電子マネーは、
SuicaのようなICカード型のものです。

なぜ、このようなある意味「ローテク」なシステムを導入されたのか?

それは、
・現地の人たちがほとんどスマホをもっていない
・ネットワークが不安定で、つながるとは限らない
という現地の事情があるからです。

作る側にとって最先端であるとか、目新しいとかいうことは、
使う側にとっては関係ありません。
あくまで、使う側の役にたつか
現実的な手段としてふさわしいか
が、手段を選ぶ上での判断基準になるべきなのです。


あたらしい経済圏

さて、合田さんが電子マネーで作られている経済圏は、
どのようなものでしょうか。

その大きなポイントは、以下の2点です。
① 複利の金利を取らない。
② 収益の19%を、村単位で分配する。

① 複利の金利を取らない。
合田さんがこのシステムを作った理由を理解するには、
まずお金そのものについて、理解し直す必要があります。
そのためにこの本では、5章のうち1章をまるごと使って、
お金の仕組みについて説明されています。

まず合田さんは、この世界は「現実」と「ものがたり」でできている、といいます。
「現実」は、エネルギーや食糧など、
物理的にこの世界に存在している
もの。
それに対して、「ものがたり」は、宗教や思想、国家、法律など、
人間が作ったルール
です。
お金の仕組みも、人間が作った「ものがたり」です。
私たちが日本円を使って生活できるのも、
私たち自身がそれに価値がある、ということを当たり前に信じているからです。

さて、金利のことに話を戻すと、
複利の金利というのは、お金そのものによってお金がふえるシステム、といえます。

一方、「現実」はどうでしょうか。
20世紀後半に、同じ量のエネルギーを使って採れる石油の量がほぼピークに達し、制約が明らかになってきています。石炭も、気候変動の原因になるという観点から、使用を抑制する流れになっています。
このように、使えるエネルギーの量には限界があります。
これは、エネルギーを使って生産される食糧についても同様です。

このような「現実」の中で、際限なくお金がふえる複利という「ものがたり」を採用していると、何が起こるか。

お金の元手となるエネルギー・食糧の全体量は増えないので、
もともとお金を持っている人はお金がさらに増える一方、
お金を持っておらず、借りている人には借金が積み上がります。
これによって格差が拡大し、コミュニティが崩壊に向かうのです。

この流れを食い止めるために、
合田さんは複利の金利を取らないシステムを採用し、
決済手数料などから収益を得ることにしました。

② 収益の19%を、村単位で分配する。
合田さんの電子マネー経済圏では、収益の20%を還元しますが、
そのうち19%は村単位で分配され、
個人には1%しか還元されません。

なぜこのようなシステムを採用したのか。
モザンビークは1975年にポルトガルから独立した際に、
幹線道路に沿って意図的に村が整理され、
またその後も内戦が続いた結果、
農村内のコミュニティの結びつきが弱まってしまいました。

合田さんはコミュニティの結びつきを再び強めたいという願いから、
村単位で収益を還元することにしたのです。


未来の可能性

合田さんがモザンビークの農村で始められたあたらしい経済圏は、
どのように未来へとつながっていくのでしょうか。

この経済圏でもっとも重要視されていることは、
エネルギーと食糧という「現実」、
そしてそれらを分配するルールとしてのお金という「ものがたり」
のバランスを保つことです。

これは世界中どこでも大切なことであり、
エネルギー・食糧の「現実」サイドの制約が明らかになったいま、
ますます求められています。

そのため、このあたらしい経済圏のモデルは、
モザンビークだけでなく、世界各地の途上国の農村、
さらには日本の地方でも取り入れることができるのではないか、
と合田さんは考えています。
(実際に「地域通貨」という形であたらしい経済圏が作られ始めていますが、その流通量をどう増やすか、という点が今後の課題として残っています。)

合田さんは、日本のいくつかの自治体や地方銀行との話し合いを、
すでに始められているようです。


私が得た学びと、それをどう活かすか

この本を読んで私が得た最大の収穫は、
お金の仕組みを作り変えられる「ものがたり」として捉え直す視点です。

しかも合田さんは、最先端ではない技術を使って、
電波が届かなくなっても成り立つシステムを構築し、
あたらしい経済圏を作り上げていました。

これは、モザンビークの農村とあまり変わらない水準にあるシエラレオネをフィールドにしている私たちにとって、「私たちにもできるかもしれない」という、大きな励みを与えてくれるものだと思います。

そして、制約はいつもエネルギー・食糧という「現実」サイドにあるということ。
「現実」サイドが限界を迎えていることによって問題が生じているとき、
「ものがたり」を変えたとしても、問題は根本的には解決しません。
だからこそ、私自身は太陽光発電、風力発電という再生可能エネルギーの利用を進めていくことで、環境に負担をかけない形で、「現実」サイドの制約を減らしていきたい、と強く決意しました。


国際協力、環境・エネルギー分野、経済・金融分野に携わる方は、
ぜひこの1冊を手にとってみてください。

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