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それでも人とつながって 020 少女②

『お金が無いです』


思春期前後の頃。そういえばいつも無計画で行き当たりばったりだった。
と、書いてみたものの実は今も大して変わらない気がする。
いろいろ思い返してみると恥ずかしくなる。・・・記憶を消したい。

いろいろな子のいろいろな場面を見るたびに「今の子は」と思いそうになるけど、そんな時。どうなんだろう。思いとどまる。
当時の自分を並べてみたらそれどころの騒ぎじゃないかもしれない。

でも。うーん。それにしてもなあ。
中高生という年代の少女から一本の電話。
その電話の内容に逡巡している。

この少女のことは今よりもっと小さい頃から知っている。
少女はお婆さんと二人で暮らしている。
両親は色々な事情があって存在しないことになっている。
少女がまだ物心もつかない頃。ある出来事からお婆さんが引き取った。
少女に両親の記憶は殆どない。[それでも人とつながって 015 少女①]

『お金が無いです』少女からの電話の向こうに街の雑踏が聴こえる。
いろいろ尋ねたいことはあるけど、いまどこに居るんだろう。
『学校からの帰り。部活が終わって駅まで歩いてきました』
そこでやっとお金が無いことに気付いたのかな。いくら持ってるのか。
『・・・140円くらいかな』定期などももう期限が切れているらしい。

かろうじて何か一手打てそうで打てない額を聞いて悩む。
駅名を聞いてインターネットで地図を見て周辺を調べる。
あ、交番がある。交番で家に帰るお金が無いって話せば何とかなるかも。
『イヤです』
・・・即答だ。色々聞かれるのが嫌だ。それに家に帰ってもお金は無い。
明日は部活で遠くの他校へ行く。お昼から何も食べてない。

どうしてこうなった。
聞きたいことはたくさんあるけど。今は仕方がない。手を打たなくては。
それに多分。少女は少女なりになにか手を考えてはいたのだろう。
でも、アテが外れた。手詰まりになり電話をした。そんなところだろう。
甘い読み。それを聞いて今更突っ込んでも詮無きこと。それより何か手を。

唯一無二の同居家族であるお婆さんは目下入院中だ。
お婆さんの不在中は自分と仲間達のサポートで一定の期間を自宅で過ごすことになっている。何とかしなくてはならない。

でも。うーん。それにしてもなあ。
計算ってしないのかな。素朴にふと頭の隅に少し引っ掛かるものがあるが、これも今はそんなことを言っていても仕方がない。無心にならなければ。

時計を見るとこの少女の年代にしては夜も遅くなってきている。
どこかに相談している場合でも無いな。
年端も行かぬ少女がお金が無くてそれなりの繁華街にある駅で立ち往生した場合。運が良ければ補導。悪いと・・色々だ。それこそ思わぬ展開だって。
時間的に声を掛けてくるのは立場が極端に偏った者達になってくるだろう。

140円でどこの駅まで行かれるか尋ねる。比較的近くまで来れそうだ。
その駅なら住宅街の利用者ばかり。今の所より不穏なことも少ないだろう。

そしていま考えるのは、少女にお金が渡るようになる方法。
貸す。貸すしかないか。どうも最悪だけど。今はそれしかないと思う。
その中でも出来るだけ正当に思えるような方法を考えたい。
子どもに借用書というのも気が引ける・・・。なんかおっかないな。

そうか。よし!もう、こうするしか。
仲間に状況の連絡を回す。だれか力を貸して欲しい。
少女が移動可能な駅まで向かってくれるという仲間から返信がある。
連絡を取って待ち合わせ。その後、待機してもらうように頼む。
まずは一つ助かった。もう一つ。

自分は少女の唯一の同居家族であるお婆さんが入院している病院へ連絡。
夜間の窓口に繋がる。病棟につないで欲しい。
事情を話し面会を申し出ると、看護師に呆れ果てたような声を出される。
感情的かつ冷たく断られる。分かってる。当たり前の反応。でも押す。

「では、問題は放置します。でも何かあった時にはご説明をお願い致します
 なのでもう一度。お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
『何のことですかぁ!?』看護師さんの声は冷たく怒りがこもっている。

悪いけど。こっちも分かっていてやっている。
今度、本当に謝りに行きます。罪悪感にそう心のなかで思いながら
「もし事件などに発展した際には経緯の説明をお願いいたしますので」
言い終わると同時にガツッと音がしたきり返事がない。
怒りに任せて受話器を置いたようだ。でも電話はつながっている。

ほどなく。電話から別の人の声が聞こえた。
『わかりました。お婆さんにはこちらから伝えておきます』
助かります。看護師さん。あなたのお名前は。
『主治医です』
失礼いたしました。ありがとうございます。


・・・・・
・・・


話の上だけになるけど。形式上。お婆さんにお金を貸す。
了承を貰って、そのお金をお孫さん=少女に渡す。
このやり取りの証明を第三者が出来るようにする。

その時はこれくらいしか思いつかなくってさ。
後日、この日の出来事について他の仲間に経緯を説明している。

『いやあ。流石というか・・・。こういうのよく思い付くね』
何が正しいのか、どうしたら良かったのかも分からないけどね。
『でも良かったんじゃないの?』

うーん。良かったのかな。いきなりその場になってお金がないとかさ。
あの時。お金を渡せば解決する問題ではない何か別の課題も感じた。

『良かったよ。それでご飯も食べて部活にも行けたんだから』
あっ!それなんだけどね。

『ん?』
・・・次の日は寝坊して行けなかったんだって。
『・・・・・・・・』


この少女の話は③へ続く。


これは少女の巻の二。この後に続く出来事はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。


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