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癒しとリラックスの場を作りたくて19

2022年2月・Tさんの場合(筋肉支配・味覚改変・人格改変)

■催眠導入までスムーズに
先月も体験してもらったTさんに、今月もまた催眠体験をしてもらうことにしました。
前回、とても催眠に掛かりやすい人だとわかったので、今回は披暗示性テストは省略。催眠でいちばん大事なラポール(信頼関係)が既に築けているので、いきなり導入から入ります。
「前に体験したときは、すっきりして気持ち良さそうでしたよね。今回もまた癒されに来たと思って、リラックスしてください」
そういった会話で緊張をほぐしながら、深呼吸をしてもらいます。大きく吸って吐いて、そのたびに体の力がだんだん抜けてほぐれていくのを意識してもらいながら。
「もうこの段階で20、30%くらいは掛かっているんですが、もうちょっと催眠深度を深めていきましょうね」
そういって、例の50円玉の振り子を持ってもらいます。
Tさんの場合は左右に揺れるのがわかっているんですが、それでも大事な導入部なので、追い込み暗示で揺れを大きくしていきます。
「はい、もっと右に左に揺れますよ。もっと揺れます、どんどん揺れます……はい、これで60%くらいは掛かってますね」
次に登場させた新兵器が、光る耳掻き(笑)。「いくら光っても自分で掻くときには無意味ですよねぇ」などとなごんでもらいながら、先端を見つめてもらって視野狭窄へ。
「はい、見つめているうちにだんだんまぶたが重くなってきます。そう、もう重くなってきましたね。どんどん下がってきました。我慢しなくていいですよ、とろんと気持ちよく眠りに入ってください……」

30秒ほどで寝てくれたので、寝ているTさんに全身脱力の暗示を掛けます。椅子の上でぐったりとなってくれました。はい、催眠導入完了。
「それでは眠ったままよく聞いてください。目を覚ますと、あなたの腕の筋肉は僕に支配されています。腕を曲げようとしても曲がらなくなりますよ、では3、2、1」
パン、と手を叩いて目を覚ましてもらいました。腕を伸ばしてもらいます。
「この肘、曲がらなくなったら困りますよね。でもそうなっちゃうんですよ。はい」
「え、え、え?」
この催眠、前もやってるんですが、改めて曲がらなくなった腕にTさんは驚いています。
さて、ここまでは以前やったことの復習でできるのです。問題はここから。
■重くて持てないハンカチ
今朝アイロンをかけてきた、洗濯したばかりの自分のハンカチをTさんに渡しました。
「これ、重いですか軽いですか」
「軽い、ですけど……?」
「そうですよね、いきなり重くなったら手が拭けなくて困りますものね。でも、そうなっちゃうんですよ」
「???」
「ちょっと、こう、端をつまんでください。だんだんハンカチが重くなってきますよ。3、2、1」
半信半疑で布をつまんでいた彼女の腕が、だんだん下がってきました。どうやら順調に重さが増しているようです。
「はい、どんどん重くなります。まだまだ重くなります。腕が下がって持つのが辛くなるくらい、どんどん重くなる」
「え、え、ちょっと。ええっ」
「重いですね、困りましたね、持てなくなったらどうしましょう」
「も、もう持てないです」
「じゃあ指を離しちゃっていいですよ」
ハンカチは床に落ちていきました。Tさんは目を丸くしています。
その後も苦労して持ち上げてもらったんですが、ぱちんと解除すると、なんなく持ち上がりました。はい、成功。
■「あ、オレンジっぽい」
ご自分で買っていた飲み物(ミネラルウォーター)を、Tさんに用意してもらいました。
「ちなみにジュースでは何が好きですか」
「100%のオレンジジュースです」
愛媛県では本当にオレンジジュースが出てくる蛇口があるみたいですよ、などと和ませながら、その水をちびちび飲んでもらいます。
「もし水がオレンジジュースに変わったらうれしいですね。もう買わなくて良くなりますね」
「え? あ、はい」
「でも、なるんですよ。3、2、1」
パン、と手を叩いてから水を飲んでもらいました。
実は自信がなかったんですよ、この味覚改変。やり方はわかるけど試すのは初めてで、本当に自分にできるのなか、と。
水を飲んでいたTさんが、不思議な顔でペットボトルを見ています。
「どうですか、オレンジジュースでしょ?」
「いえ、ジュースではないですけど……」
あらぁ、失敗かぁ。まぁ初めてだから仕方ないかな。
Tさんはまだ小首をかしげています。
「でも、なんだか、味がオレンジっぽい……」
マジか。成功しかかってるのか。
「割合で言うと、ナンパーセーントくらいオレンジですか?」
「20……30くらい……?」
「それが70%までジュースになります。はい」
ぱちん。
「あ、オレンジだ!」
ああ、なんとか成功だ。
「よかったですね。これからずっとジュース代が浮きそうです。でも残念ながらまた水に戻っちゃいます」
ぱちん。
「あ、水!」
「今度は青汁に変えましょうか?」
「やだやだやだ」
「あはは。ちなみにコーヒー派ですか、紅茶派ですか」
「紅茶ですね」
「はい、いま飲んでいるそれが、紅茶に変わります」
ぱちん。
ごく。
「あ、『午後の○茶』だ!」
味改変、なんとか身に付けられたみたいです。


■猫ちゃんになっちゃいましょうね

note19 1 4コマ

さて、最後は本日のメインイベント。常識改変です。自分の人格を変えてしまうという大仕事。
「猫ちゃんは好きですか?」
「あ、好きです」
「じゃあお手持ちのスマホで、猫ちゃんの画像を検索してもらっていいですか? スライドでどんどん見ていきましょう」
やっぱりマンチカンがかわいいですよね。なんだこの子こんな格好で寝てる……などと、一緒に画像を見ながら、しばらく楽しく話します。
とびきりかわいいお気に入りの猫ちゃんの写真をじっと見てもらいました。
「猫ちゃんっていいですよね。自由気ままで、ご主人様から愛されて。可愛がってもらえて。できれば猫になりたいですよねぇ」
「そうですね」
「この写真みたいなかわいい猫ちゃんになれたら、毎日楽しいですよ。ほら、じっと見て。こんな子になりたいなぁ、猫ちゃんになりたいなぁって」
「はい……」
「なっちゃいましょうね。この猫ちゃんに。じーっと見てるとだんだん眠くなってきて、自分がこの猫ちゃんにだんだん変わっていきますよ。はい、あなたは猫ちゃんです。自由で、可愛がられて、毎日楽しく暮らしてる猫ちゃんです。どんどん眠くなってきて、自分が次第に猫ちゃんに変わっていきます……」

くーっ、と眠ってしまったTさんに、頃合いを見計らって声をかけます。
「猫ちゃん、遊ぼうか」
「……」
「猫ちゃんだから、にゃんにゃんってお返事しようね」
「……にゃん……にゃん」
このときまで、自分がここまでできるとは正直思っていませんでした。でもしっかりとTさんは猫になっています(正確には「その気」になっています)。
こうなったら、とことんねこちゃん体験を楽しんでもらおうと思いました。
「猫じゃらしみたいなものがあるよ。これで遊ぼうか」
例の50円振り子を前に垂らすと、拳を丸めた手で、ふーっふーっとつついてきます。

「そうそう、猫パンチしてみて。楽しいよ」
「にゃん」
女の子が目の前でなにかを猫パンチしてる姿はかわいいですね。しかも本人はなりきってます。
「お散歩しようか。床に四つん這いになって」
「にゃん」
部屋をぐるぐる回ってもらいました。楽しそうです。

よくできたので頭を撫でてあげました。マスクの下の顎をくすぐってあげると、うれしそうにごろごろいってます。
このあと施術台に上ってもらって仰向けてお腹を撫でたりとか、四つん這いで尻尾(本人はあると思っています)を振ってもらったんですが、僕自信も夢中で掛けていたので、写真は撮れていません。ごめんなさい。
「それじゃ人間に戻りましょう。戻っても楽しかった感覚は残ります、3、2、1」
パン。
「……?」
「猫ちゃんになったの、覚えてますか」
「あ、なんとなく」
「楽しかったでしょ」
いつものヒーリングとはひと味違って、こんな体験で楽しんでもらうのもいいなぁと思った、この日でした。

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