癒しとリラックスの場を作りたくて17

Tさんの場合(前編)


久しぶりの催眠体験につきあってくれたTさんは、よく笑う、明るいお嬢さんでした。
「催眠の経験はないけど、興味はあります」とのことだったので、会場へ向かう道すがら、催眠についての基本を伝えて安心してもらいました。「潜在意識が拒否する嫌な暗示には掛かりません。放っておいても徐々に解けますが、終了時にはきちんと解きます」等々。やっぱり初めての体験は不安ですからね。
■まずはリラックスしてもらう
部屋に入ってしばし談笑。催眠の前段階としてリラックスしてもらうのは必須なんですが、僕、けっこう上手いんですよ。女の子を和ませるのが。
「今日はスッと気持ち良くなりに来たと思ってくださいね」と、まず深呼吸から始めます。この段階で一緒に呼吸を合わせながら、「ふーっと息を吐くだけで、だんだん力が抜けていきます。脱力って気持ちいいでしょう?」とリラックスを深めていきます。
向き合って一緒に深呼吸をするのって楽しいですよ。

■被暗示性を高める
「まずはTさんが催眠に掛かりやすい人かどうか、確かめますね」と、被暗示性テストを開始します。
離れている指先がくっつく、振り子の50円玉が勝手に動き出す……といった現象ですが、Tさんの場合はゆっくりゆっくり、かなり時間が掛かりました。それでも指がくっつきそうに近づくと、「え? え?」と目を丸くしていました。実際にくっついたり振り子が揺れ出すと、半信半疑だったのが信じるようになったみたいですね。
「ああ、かなり掛かりやすいみたいですね。じゃあこれからの催眠を楽しんでいきましょう」と告げて、いよいよ本格的に進めていきます。

■催眠導入
初期の段階で僕がよくやるのが、被験者さんが前に伸ばした両腕が勝手に左右に開いてまた閉じる、というもの。成功率はほぼ100%です。
「はい、どんどん開いていきます。どんどん開く。まだまだ開きます……」
この追い込み暗示も、ずいぶんと上達しました。案の定、Tさんの伸ばした腕がどんどん左右に開いていきます。ご本人は不思議そうに腕が勝手に開くのを見ていて、終わった後は目をパチパチさせていました。
「もうずいぶんと掛かっちゃってますね。どんどん深くしていきましょう」
■催眠深化:感覚支配
実際にもう催眠がかなり深化しているので、ここからは眠ってもらうことにしました。
振り子を今度は僕が持って、コインの穴を注視してもらいます。
「では、だんだんと瞼が重くなっていきます。体の力が抜けていって、深ーい眠りに入っていきます……」
スムーズに眠ってくれました。順番に四肢の力を抜かせたので、ソファにぐったりともたれ掛けます。
完全に眠ってくれたところで、定番の暗示を。
「いま目の前に風船があります。その紐を掴むと、どんどんあなたの腕が上がっていきます。空に帰ろうとしている風船に引っ張られて、どんどんどんどん上がっていきます……」
伸ばしたTさんの右手がゆっくりと上がっていきます。実際は高くは上がらなかったんですけどね(汗)。でもきちんと拳を握って、掴んでくれていました。後で訊いたら、ちゃんと風船があって、握ったことは覚えていたそうです。

■さらに深化:筋肉支配
3、2、1で目を覚ましてもらい、いまの気分を訊くと、「すっごく気持ちいい!」ということでした。よかった。
ここからは、実は初チャレンジ。筋肉支配です。
また胸の前で手を組んでもらい、左右の人差し指をくっつけてもらいます。
「瞬間接着剤ってありますよね? それをいま、このくっついてる指の間に塗ったらどうなるでしょう?」
「離れなくなりますね……」
「そうですね。実は僕、魔法のアロン〇ルファを持ってるんですよ」
手をひらひらさせながらそう言って指に塗る仕草をし、「離れなくなりますよ」と暗示を掛けて、パン!
「ええっ、ちょっと、え?」
本当に離れなくなりました。おお成功したぞと思いつつ、平静を装って「どうしたんですか? もう指を離してもいいんですよ?」
離れなーいと言っているTさんの目の前でまたパンと手を叩くと、スッと離れました。

同じように、今度は腕の筋肉支配。
「まっすぐに伸ばした腕が曲がらなくなります。3、2、1、はい」
「えええええ」
「どうしたんですか、曲げていいですよ?」
「曲がらないいいぃ」
「困りましたね。帰るときそのままの格好だと、皆にじろじろ見られちゃいますよ?」
「やだぁ」
解いてあげると、楽しそうに笑ってました。自分の体が操られるって、楽しいんですね。

■ヒーリング
もうどっぷり催眠にはまってくれているので、ここまで来たら最終段階の感情支配までできるかな、と試してみました。
不思議そうに笑ってるTさんの顔の前に手をかざし、気分をアップさせるように、スッ、スッと何度も上へ動かします。
「楽しいですねぇ。もっと楽しくなりましょう。ほら、どんどん楽しくなる、もっと楽しくなる。笑っちゃいましょう」
あはは、と笑い始めるTさん。感情支配まで成功したのは初めてですが、目の前で楽しそうにしてくれているのを見るのって、うれしいですね。
また眠ってもらい、いよいよ本番のヒーリング体験。これをやらないと意味がないですからね。
ぐったりと眠っているTさんに、額に手を当ててもらいます。ここからは企業秘密なので詳しく書けませんが、頭の中のモヤモヤを手のひらに移し、それをウエットティッシュで拭って、ポイ、と捨ててもらいました。人によって違いますが、Tさんの場合は割と勢いよく投げてくれました。
「これであなたの頭の中のモヤモヤはなくなりました。合図で目を覚ますと、これまで以上にすっきりした気持ちで目が覚めます。嫌なことは全部忘れています。いきますよ。3、2、1」パン。
目を覚ましたTさんに、床の上の丸めたティッシュを見せて「あれがあなたの嫌なものですよ。捨ててしまいましょうね」と、僕のバッグに入れました。
「すごいすっきり……」
目をぱちくりしているTさんを見て、癒されてくれてよかったなぁと思ったのでした。

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一応これで終わりなのですが、時間があったのでTさんに訊いてみました。
「まだやりますか? 続けるのでしたら、次にやるのはですね……」
(後編へ続きます)


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