KAGERO V - KAGERO

CDに付いている謳い文句が、その内容とかけ離れていることは少なくない。

帯に印刷された、誇大広告気味な謳い文句を信じて購入したは良いものの、帰宅して聴いた瞬間に「人生そんなに甘い話はない」と現実をつきつけられた経験が、読者諸兄にもあるだろう。

「圧倒的”音の暴力”」

包装に貼られたシールからの抜粋だが、謳い文句と内容がこれほどまで合致するアルバムがあっただろうか。少なくとも(さほど量はないが)2015年に筆者が聴いてきた新譜にはなかったように思う。ジャズパンクバンドであるKAGEROの五作目「KAGERO V」(以下今作)は、まさに看板に偽りなしの傑作だと言えるだろう。

今作を一言で言い表すならば、「全曲がクライマックス」ではないだろうか。アルバムに収録された一曲一曲の熱量が凄まじく、その全てが映画で言う所の最高の見せ場、クライマックスに相当する。勿論、激しい曲ばかりではない。しっとりとした、しかしKAGERO節が随所に効かせられたジャズ寄りの曲も収録されており、それらの曲もヘヴィな曲とはまた違った意味で、凄まじい熱量を放っているのだ。アルバム構成は前作までとは比べ物にならないほど「自然体」で起伏に富んでおり、どこかノリ一発だった部分を完全に消化した、緩急がしっかりと付けられたアルバムに仕上がっている。

ジャズ要素をあまり感じさせないロール多用のパンキッシュなドラムに対し、負けじと音の弾丸を連発する打撃系鍵盤。ここまでやるか(でもこのベースの音が一番お気に入り)とばかりに歪みまくっているラウドなベースと、喜怒哀楽全てを表現する変幻自在のサックス。一見すると全てが自己主張し、喧嘩しあうようにも見えるが、絶妙なサウンドメイクと、ミックスダウンによって全てがマッチしているのだ。かつて、各メンバーがピーキーなサウンドメイクをしていたのにもかかわらず、絶妙なバランスで成り立っていたPANTERAを彷彿とさせられるのは、筆者だけであろうか。

今作のトラックリスト全11曲のうち、3曲はベーシストでバンドの頭脳でもある白水悠氏の別バンド、I love you Orchestra(以下IlyO)のアルバムにて先に収録(M2 EraserはKAGEROのLIVE IN NEW YORKで先に収録)された曲である。どちらのバンドも大好きな筆者は、KAGERO新譜のトラックリストが公開された時、正直に言うと、少々残念な気持ちになった。

2年連続でKAGEROが新譜を出してくれるだけで嬉しいけど…使いまわしの曲が三曲か…まぁ仕方ないかな…

なんてことを考えていた。しかし、新譜を聴いた今だからこそ言える。完全なる別曲だ。残念がっていた自分を今からでもぶん殴りに行きたい。ミックスもアレンジも違う同名の楽曲は、まぎれもなくKAGEROの曲であり、IlyOのそれとはまったく違った格好よさがある。

今作には他にも珠玉の曲が揃っている。M3 NO WAYは哀愁漂うサックスのリフを軸に他のメンバーが絡み合うジャジーな曲、M4 THE TRICKSTERにおいてはツーステップでゴリゴリ押し進むと見せかけて、ブレイク後のヘドバン必至なベースと鍵盤の掛け合いが堪らない。後半になるにつれてM8 Ginger、M10 Ajisai等のしっとりとした楽曲で締めに入るのかと思いきや、M11 winter beach, and the beautiful sunsetでアルバムは大団円を迎える。前作IVのトリ曲、CRY BABYも締めの曲としてはぴったりであったが、今作の物は勝るとも劣らない。この辺りは、前述した「緩急」に直結する部分であろう。

そしてもう一つ、付け加えておきたい事がある。音質の向上である。

話は少しそれるが、IlyOは1stアルバムをリリースしてから超短期間で2ndアルバムをリリースしている。未聴の方は是非手にとって聴いてみていただきたい。筆者はどちらのアルバムも好きだが、2ndの音質向上が顕著であると感じている。1stが悪いというわけではないのだが、2ndの方が音に説得力があるのだ。果たしてKAGEROの今作。IlyOがあったからかどうかは定かではないが、確実にIVよりも音に生々しさが増している。単に音圧が上がっただけでなく、各パートの輪郭がくっきりとしているのだ。デジタル処理された音ではあるだろうが、巷に転がっているような音ではない、非常に説得力があるサウンドとなっている。これも、今作の特徴なのではないかと筆者は考える。

散々偉そうに書いてきたが、KAGERO V 間違いなく大名盤である。2015年を代表するアルバムと言っても過言ではないのではなかろうか。彼らは2016年よりリリースを記念したツアー「KAGERO V Release tour "LOVE IS THE DISORDER"」を敢行し、その締めくくりに渋谷CLUB QUATTROワンマンライヴを行う。筆者もこのワンマンライヴを心待ちにしている一人であり、今作収録の曲はもちろんのこと、あわよくば、非常に低い確率であることは承知の上で、IV収録曲であるOVERDRIVEを観られるのではないか…?と期待しているんである。

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