大阪の私学無償化について本気で分析してみた


はじめに:前提と問題設定

これまで大阪府では、所得要件を満たせば私立高校の授業料が実質無償化される制度が行われていた。しかし、世帯年収要件を完全に撤廃し、「全ての世帯」に対して私立高校への授業料を無償化するという、極めてラディカルな政策転換である。この措置は、現在の公立高校と私立高校の間で生じている受験や進学先選択上の経済的障壁を完全に取り払うことになる。その結果、高校進学者・保護者・私学・公立学校・教職員・地域社会・行政(財政)などに多面的な影響が及ぶと考えられる。

以下では、この「全世帯を対象とした私学無償化」政策が実行された場合に想定される様々な次元での影響を分析する。

1. 生徒・保護者サイドでの影響

1-1. 受験行動・学校選択の変化:

従来、私立高校は学費が高額になるケースが多く、公立高校と比較して「家計に余裕がない家庭」は公立志向になりやすかった。収入要件が撤廃され、誰でも私立高校の授業料が無料になると、保護者や生徒は純粋に「学校の教育内容」「進学実績」「部活動の強さ」「校風」「立地条件」「ブランド力」など、学費以外の要素で進学先を選べるようになる。
この場合、従来は私立高校受験を二の足踏んでいた中堅所得層や、上位所得層など、あらゆる層が「公立よりも教育環境が魅力的な私立」を選択するインセンティブが強まる可能性がある。また、これまでは一部の上位層が私立高校を選択する傾向が強かったが、「学費負担がないなら」と、より幅広い層が私立受験に参入してくることが見込まれる。その結果、私立高校への志願者数は爆発的に増加する可能性がある。

1-2. 家計の負担軽減と家計行動の変化

:
私立高校学費完全無償化により、世帯は高校進学時の教育費負担をほぼゼロに抑えられる。これによって家計余剰が生まれ、塾や予備校、あるいは習い事・留学など別の教育投資へ振り向けられる可能性がある。つまり、家庭としては「学費」の問題が解消される分、他の教育的資源配分への余力が生まれる。これがさらなる受験競争(より高度な学習サポートを受ける生徒が増える)の激化を招く可能性もある。

1-3. 学費以外の負担:
授業料は無償化されるが、実際には入学金、制服、教材費、施設費、修学旅行費用などの諸経費は残りうる。ただし、公立でも同様の費用は存在し、かつ「授業料」部分が軽減されるため、相対的には私立のハードルは劇的に下がる。結果的に「私立=金銭的に敬遠」という図式は崩れ、人気集中が起きやすい。

2. 私立高校サイドでの影響

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