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誕生日SS!! 森谷 翠【2020】

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時間通りに鳴り響く授業終了のチャイム。
起立、という声に隣で寝ている
クラスメイトを起こしながら椅子を引く。

「ありがとうございましたっ!」

自分の発した声が心なしか
明るいことに気付き、笑みがこぼれる。
一日の授業の終わりはいつも格別だ。
今日はそれだけではないけれど。

「翠ちゃん、また明日ね~。」

声をかけてくれる友人に返事をしながら
荷物をまとめ、部室に向かう。

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「そういえば…。今日は紫音を教室に
迎えにいかなくてよかったんだった。」

今日は部活前に用事があるから先に
部室に向かってほしい、と紫音から
言われていたことを思い出す。
…やけに意味深な笑みをたたえながら
ではあったけれど。

紫音の微笑み、何かあるんだよなぁ…。

考えていても仕方がないかと諦め、
止めていた足を動かす。
それに、なんとなく察しはついているのだ。

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今日は4月23日。私の誕生日。
もしかしたら、なんてね。


「ついた…けど、まだ誰もいないのかな?」

部室には明かりが点いていなかった。
…誰も来ていないなら鍵を取ってこなきゃ。
一応確認のためドアに手をかけてみる。

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「…あ、開いてる。」

膨らんだ期待のままに、ドアを開ける。

「「「「翠先輩、お誕生日おめでとうございまーす!!!」」」」

「翠、おめでとう」

パァーーン!!と鳴り響く
クラッカーの音と点灯される照明。

「うわっ!?…び、びっくりした…」

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構えていてもやっぱり驚いてしまう。

「えへへ、大成功!」

驚いて声をあげた私をみて、
茜が嬉しそうに飛び跳ねている。
ほかの皆も楽しそうに笑っている。

…皆、祝ってくれてるんだ。
無意識に顔がほころんだ。

友達なんていらない、
一人でいたほうがいいなんて
思っていた時期もあった。

だから、興味本位で入ったこの場所で
こんなに素敵な仲間と出会えたことは、
私にとって奇跡のような経験で。

「皆、ありがとう…!」

「これで終わりじゃないですよ~?
ということでプレゼントターイム!
桃香よろしく!」

「はいっ!
翠先輩、私たちからのプレゼントです!」

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桃香から手渡されたのは数冊の本。
見覚えのあるタイトルもあれば、
初めて見る表紙もある。

「これ…」

「翠先輩が以前読みたいって言ってた本です!
あと先輩が好きそうだな~っていう本も」

「桃香が中心になってみんなで選んだんですよ」

…前に一度言っただけだったのに、
覚えててくれたんだ。

後輩の気遣いに嬉しい気持ちになる。

選んでくれた本たちも、
以前から気になっている作家の著作で。
自分の好みをわかってくれているのだ、
という嬉しさがこみ上げる。

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「ん?どうしたんですか、先輩?」

何も言わない私に気が付いた
綺衣が声をかけてくれる。

「あ…ううん、こんな素敵なプレゼントを
もらえるなんて思ってなかったから…」

「驚いちゃった?」

「紫音…。うん。
でもそれだけじゃなくて…すごく、幸せ!」

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伝えきれない感謝を込めて、
めいっぱいの笑顔を
大切な仲間たちへと向ける。

高校生活最後の誕生日は
とても特別で、幸福で…。

この1年もそんな経験を皆と
重ねられたらいいな、と。
そう思わずにはいられない...。


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台本制作:雪野みるく
@Milk_sing_cast / users/7170004

絵:いぬころりん
@inucoro_094 / users/7972705

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