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時間の歪がもたらす絆(#6 最終話)

菫は家を出ると真っ先にいつもの場所に行く。ユカリに会うために。ユカリから担任に歯向かった話を聞いてから起きた奇跡を話すために。
しかしユカリは現れなかった。次の日もまた次の日もユカリ現れることはなくなったのだ。
あの日からもうユカリには会えなくなってしまった。

それから時はあっという間に菫が進学先の寮に引っ越す前日になった。
この日家族三人で菫を送り出すパーティーをした。
「寂しくなるけど菫の目指したい道だから応援してあげることしかできないよ」ゆかりは少し泣いてはいたが菫の新たな門出のためか何とか笑ってみせようとした。
「姉ちゃん、進学先行ったら色々送ってね」
弟の琢真はその逆で素っ気ない。
「あんた、姉をなんだと思ってるの?!」菫は琢真のおでこに軽くデコピンする「痛っ!わざと強くデコピンしただろ?!お詫び代だー毎月何か送って来いよー」
「誰があんたにそんなもん送るのさー」
菫と琢真はふざけあってた。これも暫く見れなくなると思うとますます寂しく思えてきた。
「二人とも、実は母さん昔この近くに住んでた事あるんだよ。高校生の頃かな、学校もここから通ってたよ。けどね最近昔住んでたアパート壊されてしまって。老朽化でね。確かにもういつ壊れてもおかしくない状態だったけど」
ゆかりはふざけあってる二人を前に自分が若い頃の昔話を始めた。
そして部屋の奥から古いアルバムを持ってきた。
「この前実家に行った時に見つけたんだよ」
高校時代のアルバムを開く。埃だらけで少し周りに埃が舞った。
高校時代のゆかりの写真を見て菫は声を上げた。
「あ!この人!」
信じてくれるかどうかわからないが菫はゆかりに今まであった事を話した。
「そっか、そんなことがあったんだね。母さんは菫の話信じるよ。何か難しいけどね、世の中不思議なことは沢山あるから。もしかするとたまたま波長とかがあったか時間が歪んだかでその当時の母さんと会えたのかもしれないね」

そして翌日、菫は進学先の寮への引越し作業を始めた。荷物は先に引越し業者のトラックに載せて菫は単独で寮へ向かう。その列車に乗るため駅に向かうバスに乗る支度をした。いよいよ家族と離れて暮らすことになるのか。自分の夢を叶えるため希望に満ちているのと同時に寂しさもこみ上げてきた。
バス停までゆかりと琢真もついてきた。
「寮に行っても体に気をつけて。たまには連絡してね」ゆかりは菫に声をかけた。
「姉ちゃん、頑張れよ」琢磨もそれに続いて菫に声をかけた。
菫は頷くとバス停で停まったバスに乗り込む。
バスの外では二人が手を振っていた。暫くバスが進み信号で停まった。ふと外を見ると女の子が立っていてこちらを見て手を振り微笑んできた。ユカリだ!菫は嬉しくなった。
信号が変わりバスが走り出す。するとユカリはバスを追いかけ走り出した。ユカリの姿はバスに追いつく前に薄っすらとなり消えて見えなくなってしまった。
「菫さん、頑張ってね。応援してるからね」
ふと菫の頭の中にユカリの声が聞こえてきた。

それから数年が経った。
菫は実力が認められ有名なアニメ作家としてデビューすることになった。
弟の琢真はと言えばプロとは言えないもののeスポーツの選手として活躍している。
ゆかりはハンドメイド作品を作りつつも週末は仲間と共にバンド活動を楽しんでいる。
何であの時高校生の頃のゆかりが菫達の前に現れたのかは謎のままだ。
もしかすると時間の流れを超えて菫達を応援しに来たのかもしれない。
そう思いながらゆかりはバンド練習のため今はひとり暮らしになった部屋に鍵をかけて夕日に染まる空の下を歩いていった。

END
最後まで読んでいただきありがとうございましたm(__)m

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