見出し画像

時間の歪がもたらす絆(#1)

玄関のドアを開ける。清々しい空気と青空が目に入ってくる。目の前には空き地。かつてガソリンスタンドがあったのだが客が全く入らなくなったのか閉店しその後建物は取り壊され空き地と化した。再利用する手立てが見つからないのか、草が生え放題だ。
玄関のドアを開け、ふと郵便受けを見た。何やらメモ書きが入っていた。
「ゆかりへ。今日孫の顔を見に来たけどいなかったからまた来ます。体に気をつけて。たまには実家に遊びにおいで」

ゆかりは実家の母からのメモを大事そうに玄関の壁につけてあるコルクボードに貼り付けておいた。仕事が忙しくなかなか実家に行くことができない、できれば子供達も連れていきたい。
私ことゆかりは所謂シングルマザー。5年前に夫と離婚した。原因は度重なる借金。こんなのと一緒にいては老後が大変だ。夫の借金の事を計算しながら生活費の計算なんてまっぴらごめん。
子供達も私について行くといい今は子供二人と私の三人暮らしだ。子供達は二人とも高校生。姉の菫(すみれ)と弟の琢真(たくま)前者はドライな性格だが忘れ物とかうっかりミスがちょいちょいあり私がよく口うるさく言ってる。そのためたまに親子喧嘩になることがある。そんな彼女も夢がありアニメ作家になること。来年はその手の専門学校に進学し独り暮らしをする予定だ。
息子の琢真は姉とは逆で勉強は苦手で成績も酷い。ゲームばかりしているが腕はかなり良く本人としてはeスポーツの道を進みたいらしい。けど進学はせず学校卒業後は就職の道をひとまず選んでいる。
私は介護関連の仕事をしている。子供らが独立し落ち着いたら貯金した資金で小さな店を開く事にしている。雑貨と人の愚痴を悩みをひたすら聞く愚痴聞き屋的な喫茶店。
けどそれが実現するにはまだまだ先になりそう、というか実現するかさえも分からない。所詮憧れは憧れ。
私は小さなため息を付くと空を見上げた。
そして目線を空から風景に戻す。
今住んでいるマンションから僅か離れたところにも古いマンションがある。実は私が高校生の頃母と一緒に住んでいたマンション。ここから今は廃校になった高校から歩いて通っていた。
そこの大家がかなり変わり者というか厳しい人で、私が母に頼まれて家賃を届けに行くと「借り主はあんたじゃないだろ!子供に家賃を届けさせることが間違っている!」と怒鳴られたことがあった。大家の奥さんはこっそりと私に謝ってきたけど凄くショックだった。
引越しの時に部屋のチェックにきた大家が重箱の隅をつつくような指摘に(普通の大家でも言わないことをネチネチと言ってきたらしい)母がキレてしまい、ここぞと言わんばかりに大家に反撃して大家が恐怖のあまりビビっていたことが印象的だった。
その大家はとうの昔に他界し今は大家の息子夫婦が大家の家に入居し、マンションの管理は不動産会社任せになったらしい。まぁ、今となっては笑い話だが。そのマンションは当時と変わらぬ姿のままだが近くで見ると老朽化は外壁やらサッシ窓やらにしっかりとにじみ出ている。

「忘れ物したぁ!」
菫は走っていた。通学のため先程家を出たのだが途中で今日提出期限の配布物を家に忘れた事に気が付き今慌てて走っている所だ。
そんな時菫の視界が真っ暗になった、いや何かで視界が妨げられたと言った方が正しいかもしれない。
1枚の紙が走っている菫の顔を覆った。菫はびっくりしてその場に立ち止まり顔を覆っていた紙を右手で掴んで顔から離した。妨げたれていた視界が開けいつもの風景に戻る。
「ごめんなさいー」一人の女の子が菫の元に走ってきた。「すいません、カバンがしっかり閉まっていなくて中から宿題のプリントが飛んでしまったんです」その子はペコペコと菫に謝った。制服を着ているがあまり見かけない制服だ。他の地区から転校してきたのだろうか?
菫は持っていた紙をその子に渡した。
「今度からは気をつけてね。てか私、急いでるの!」
菫はそこの女の子を押し退け慌てて走り出した。
家まで着いたもののスマホを手に取り時間を見た。完全に遅刻だ。とりあえず菫は学校に電話をし事情を説明した後、トボトボと学校まで歩いていった。
これまでの出来事が実は始まりだった。

To Be Continued(不定期連載のつもりでやります)

記事購入及びサポートは少額の時は主の仕事の合間のコーヒー代、金額が多い場合進学している子どもたちの学費等に使わせていだきますm(_ _)m