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時間の歪がもたらす絆(#5)

「退学だなんてとんでもない。君は勘違いしているよ。その君の強い意志を高く評価して就職の推薦をしてあげたいんだ、まだ決まっていなければの話だけどね。担任もあれからひどく反省してたがなかなか話しかけることができなくて。それで君を呼び出したんだよ。驚かせてすまない」
担任は教頭の横で申し訳ないと深く頭を下げた。
「こちらも申し訳ありませんでした。就職の件宜しくお願いします」とユカリも頭を下げた。
教頭と担任のコネ先だけど大手の会社で待遇もそう悪くない職場だった。二人の推薦もありユカリは即採用となった。

「へぇー、そんなことあったんだね!凄いよユカリさん」
「えへへ、照れるなあ。だから菫さんも負けないで!これからじゃない!」
菫はユカリにそう言われて何だか落ち込んでいるのが馬鹿みたいに思えた。元気になってきたのだ。
「ありがとう!私もう少し頑張ってみる!」
そう言って菫はふとユカリを見た。何かいつもより透けて見える気がするが気のせいだろう。
安心したユカリは菫に手を振り背を向けて去っていった。菫のスマホが鳴って確認し直ぐ後ろを振り向いたがユカリの姿はもう無かった。代わりにどこかの路地から大型のダンプカーが様々なものを荷台に載せて大きな道路に出ていった。

翌日いつものように学校に行く菫だがこの日はユカリの姿は見えなかった。
学校に行くとこの日は先日会社説明会に来ていた会社の面接担当の人が数名来ていた。その中には先日菫に暴言を吐いてきた面接官もいた。その面接官は菫を見つけるなり歩み寄ってきた。
「君はここの学校なんだね」嫌味たっぷりで言ってくる。明るかった気持ちは沈み最悪だと思っていた。
「君みたいなシングルマザーの家庭育ちの子供を雇ってくれる物好きな会社は見つかったのかい?その分だと何も決まってないみたいだね」
先日菫に嫌味を吐き散らしてきた面接官はこの日も更に嫌味を吐いてきた。
あまりの嫌味に菫は泣きそうになったが、先日ユカリの話を思い出した。
「いくらなんでも言って良いことと悪いことがあると思います。確かに私の家庭はシングルマザーですが、そこの家はどうとかそんなので人の価値を決めるなんておかしいです!」
菫は大声で嫌味を言う面接官に言い放った。
「生意気な!そんな奴はうちの会社では絶対に採用しない!」ニヤニヤ笑いながらその面接官は菫に言った。「しかも大声で何を言うのかと思ったら。常識がないにも程がある。親の顔が見てみたいわ」
そう言われて菫はガクリとうなだれた。目には大粒の涙が溢れそうになる。

しかし次の瞬間「あなた、この前会社説明会にこの人の会社の面談受けてたコだよね?」
突然スーツを着た背の高い女性が割って入ってきた。
菫に話しかけてきた人は全く知らない人だった。
「あ、申し遅れてごめんね。私こういう者!怪しい人じゃないから大丈夫」
スマイルいっぱいで菫に名刺を渡してきた。
「私は佐藤友香、会社広報と面接担当やってるの」
菫は恐る恐る友香から名刺を受け取る。
「いやいや、そんなに怖がらなくてもいいのよ、私はあなたを探してたの」
「おやおや、お前みたいな生意気な小娘が気になる会社がいたとはねぇ。物好きな会社だ」
先程の面接官が嫌味を垂れ流す。
友香は嫌味を垂れ流す面接官に向かって歩き出し面接官の目の前で止まった。
「アンタ、この前から何を言ってるかと思ったら。ほんっとアンタって人を見る目がないわね。そして人を育てる能力もゼロよね。アンタそれでよく面接官やってられるわね、ねぇアンタの周りでは人がどんどん辞めていってない?有能な人もその中に含まれてるからアンタの会社はいつも業績不振じゃなくて?」
友香の発言が図星だったのか面接官の顔は青ざめた。悔しそうに唇を噛みしめている。そしてちくしょー!と叫んでその場から走り去っていった。
菫は自分に嫌味を垂れ流した相手を打ち負かしてくれた友香に頭を下げた。
友香はそんなことしなくていいよ、それよりも頭上げて話を聞いてと言い話を続ける。
「やっぱり私の目に狂いはなかった。菫さん、単刀直入に言うけどうちの会社に来てほしいの」
え?私みたいのが?と菫は自分に指をさす。
「菫さん、あなたの希望はアニメ作家になることよね?一通りあなたの事学校で話を聞いてきたのよ」
「そうですが、うちはシングルマザーでお金に余裕がないから専門学校に行くのは諦めて就職しようかと…」
友香は専門学校に行くのを諦めるのは早いと話す。
そして話をさらに続ける。
「条件付きだけど菫さんが専門学校に行くのを応援してあげる。学校の授業料も生活費もうちの会社で奨学金として援助するよ。その代わり学校を卒業したらうちの会社に就職して働いてもらうのが条件。心配はいらないのよ。うちの会社はアニメ作家に活躍してもらう仕事な上にうちの会社系列にはそうした作家を育てるための専門学校があるんだから」
友香はその専門学校の校名を伝えた。何と菫が行きたがっていた専門学校だったのだ。
「直感的に菫さんには大きな才能があるって感じたから。だからダメ元で学校に来てみたの。それに菫さんはハッキリと自分の意見を言うコだということも分かって『絶対にこのコは連れてこなきゃ!』って思ったわ。やはり私のカンに狂いはなかった。どう?来てくれる?」
菫は自分はいいがまず母に話してからじゃないと難しいと答えた。それでは後日母に会社の説明等も兼ねて家庭訪問をしたいと伝えた。それには菫は母に伝えておきますと喜んで答えた。

後日友香は菫の家を訪ねた。ゆかりに会社の説明等をする。進学の際の費用も会社持ちになるのでお母様の負担はありませんと伝えるとゆかりは宜しくお願いしますと深々と頭を下げた。
To Be Continued(不定期連載)

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