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やさしい易経入門(3)「水雷屯(すいらいちゅん)」

本稿は『易経』特有の難解な漢字表現を、可能な限りやさしい漢字表現に置き換えて解説することで、学習の間口を広げることを目的としています。まず、「原文」と「書き下し文」を記載し、続けて「現代漢字表現」「現代語訳」と「解説」を加えています。

水雷屯(すいらいちゅん)

【屯(チュン・トン/あつ-まる。たむろ-する。】会意。「一 + 屮(草の芽)」で、ずっしりと生気をこめて地上に芽を出そうとして、出悩むさま。「一」は地面の意を示す。

『漢字源 改訂第五版』(Gakken)

原文
屯、元亨、利貞。勿用有往攸。利建候。

書き下し文
屯は、元いに亨(とお)る。貞に利ろし。往(い)く攸(ところ)有るに、用いる勿(なか)れ。候(こう)を建(た)つるに利ろし。

現代漢字表現
屯は、おおいに通(とお)る。貞によろし。行(い)く所(ところ)あるに、用いるなかれ。候を建つるによろし。

現代語訳
今は、物事の進展を阻むものがあるが、天の意図には適っているので、最終的にはうまくいく。目標があったとしても、今はそれに取り組むべきではない。機が熟しておらず、別にやるべきことがある。代理人を立て、任せるとよい。

解説
「屯」は、物事がなかなか進まない状況を示唆し、そのような状況における心構えや対処法について説く卦です。「往く攸有るに、用いる勿れ」とは、物事の進展を阻むものがある状況において、目標があったとしても今すぐに取り組むべきではないと説いています。「侯を建てる」とは、王(封建君主)が家臣に領地として土地を分かち与え、侯(封建領主)にその土地の運営を任せることをいいます。ここでは状況を打開するために力のある人物を頼るとよいことを示唆しています。

一般的な易の解説では「侯」は「代理人」として訳し、この卦を読み解きます。裁判で弁護士を代理人として用いるときは「代理人を立てる」といいますので、現代語訳では「侯を建てる」を「代理人を立てる」としました。この「侯」ですが、その意味するところは、単なる使いっ走りではなく、問題に対処する力をもった専門家、実力者と理解するのがよいでしょう。

注釈
「侯(コウ)」は、軍功のある主要な家臣などに与える爵位の1つでもありますが、元々は王や皇帝などの君主(支配者)の命により、領地をおさめる家臣である「封建領主」のことです。古代中国においては封土(領地)をおさめる領主を「侯」といい、中世ヨーロッパにおける「貴族」、日本においては「大名」がそれにあたります。

字の由来をたずねると、弓矢の的の幕をたらしたさまである「广(ユの部分)」と「矢」と合わせた原字があります。「人」を組み合わせて「矦(コウ)」や「侯(コウ)」という字が派生しました。「矦」は、弓の射手、転じて近衛の軍人を意味します。よって、ここでは「侯(コウ)」を、単に業務を委託する代理人ではなく、任務を果たす実力と信頼、忠誠心のある人物とするほうがいいでしょう。

【侯(コウ)】会意兼形声。原字は、的(まと)の幕をたらしたさまを示す「广印」と「矢」と合わせた会意文字。その上に人の字を乗せた「矦(コウ)」の字は、弓の射手、転じて近衛の軍人。侯は「人+音符コウ」。

『漢字源 改訂第五版』(Gakken)

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易をたてて何かをたずねるときは、何か問題や困難に直面していることがほとんどでしょう。易の卦には、実にたくさんのテーマがあり、さまざまな角度からのアドバイスがあります。

初九以降は準備中です。

*原文の字句を解説で改めて用いる場合( )で読みがなを明記し、字句の対応がわかるようにしています。また、必要に応じて注釈を添えています。また、Web上で読みやすいよう原文のレイアウトを変更しています。

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