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やさしい易経入門(1)「乾為天(けんいてん)」

本稿は『易経』特有の難解な漢字表現を、可能な限りやさしい漢字表現に置き換えて解説することで、学習の間口を広げることを目的としています。まず、「原文」と「書き下し文」を記載し、続けて「現代漢字表現」「現代語訳」と「解説」を加えています。

乾為天(けんいてん)

【乾(カン・ケン/かわ-く。ほ-す。いぬい。】会意。乾は「旗が高くたなびくさま」+「日」+「乙印(伸び出る))」で、太陽が旗のように高くあがるさまを示した。高く明るくかわくの意を含む。

『漢字源 改訂第五版』(Gakken)

原文
乾、元亨利貞。

書き下し文
乾は、元(おお)いに亨(とお)る。貞(てい)に利(よ)ろし。

現代漢字表現
乾は、おおいに通(とお)る。貞によろし。

現代語訳
君子の言動は、天の意図にかなっており、物事を成し遂げることができる。

解説
乾は、人にたとえるなら徳を備えた立派な人物をあらわします。古代中国ではそのような人物のことを「君子(くんし)」と呼びました。この「乾」にかかる言葉として「元亨利貞(げんこうりてい)」とあります。「おおいに通る」とは、簡単にいえば「(最終的には)うまくいく」「物事を成し遂げられる」「志をまっとうできる」ということです。というのも、君子の言動は「貞によろし」つまり「天の意図(神意)にかなっていて、たいへんよろしい」からです。

注釈
「貞」は、一般には形容詞として「ただしい。まっすぐである。動揺しない。」の意味で使われますが、ここでは動詞として「うらなって神意をきく」「ただしく神意をきき当てる」の意味に用います。よってここでは「天の意図(神意)にかなっているかどうか」と解釈しました。

【貞(テイ・ジョウ/ただ-しい。と-う。き-く。】形声。もと鼎(かなえ)の形を描いた象形文字で、貝ではない。のち、卜(うらなう)を加えて、「卜+音符鼎テイ」(貝は誤り変わった形)とから成る。

『漢字源 改訂第五版』(Gakken)

「貞」のなりたちは「兆し」から吉凶を託宣にたずねる「ト(ぼく)」と「鼎」から成ることから、祭祀を執り行い託宣を得るさまをさしていると考えられます。

「貞淑さ」という倫理観や「正しい」とする価値観は、国や時代によって異なります。よって、ここではそのような「人間の価値基準でのただしさ」をよしとするのではなく「神意としてのただしさ」をよしと解釈するのが適当だと考えます。

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多くの人々が数千年にわたって『易経』を頼りに、損得や感情で割り切れない「人生の岐路」を乗り越えてきました。その最初の一節が「神意かなっていれば、うまくいく」というのは、易経が哲学の書としてだけでなく、占いの書としても親しまれていることに通じるのではないでしょうか。

初九以降は準備中です。

*原文の字句を解説で改めて用いる場合( )で読みがなを明記し、字句の対応がわかるようにしています。また、必要に応じて注釈を添えています。また、Web上で読みやすいよう原文のレイアウトを変更しています。

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