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精巧 市場連動生産ストーリー(5)

精巧 市場連動生産ストーリー(5)

こんにちは、近江です。

今回は、販売に必要な在庫と店頭に必要な安全在庫分だけをつくり足す、「市場連動生産」についてお話させていただきます。


TSSで行う市場連動生産

ここまでお読み頂いてご理解いただいた通り、当社のTSSの生産方式は、従来のアパレル生産方式(ロット生産・バンドル方式)と比べ、毎日製品が完成して行きますので、出荷の頭出しが早く、小ロット・短納期生産が可能になります。
従って、過剰な在庫を作り込ますに、直近の売れ行きを確認しながら、数週間分の販売に必要な在庫と店頭に必要な安全在庫分だけをつくり足す、「市場連動生産」にも適しているのです。


市場連動生産とは次のような手法で行うものです。

1)準備段階
時間のかかる製品の仕様確認、サンプル作成は、3Dモデリングで短縮するか、あるいは、必要最小限のサンプルを作成して確認を済ませておき、量産に必要な主素材と必要な附属資材はあらかじめ用意しておきます。
 ・CG(コンピューターグラフィック)またはサンプル作成による仕様決定が出来ていること
 ・製品をつくる素材や資材がすべて揃っていること
 この2つがこれからお話しする市場連動生産をスムーズに進める上での制約条件になります。

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2)初回生産
販売時期に出来るだけ近い方が、需要が読みやすいので、できるだけ引き付けて、初回生産を行います。
但し、製品ごとのシーズン販売計画数に対し、全量を作ってしまうと、一度に在庫リスクを抱え込むことになるので、まずは当初の販売に必要十分な生産量からスタートします。
 
この必要十分な量というものが難しいところですが、アパレルのサプライチェーンと在庫最適化に詳しい、ファッション流通の専門家であるディマンドワークスの齊藤孝浩氏(「ユニクロ対ZARA」の著者)によれば、上限はカラー・サイズつまりSKUごとにプロパー(定価)販売が確実な数量とのことでした。
実際に、過去の似寄り商品の販売データを検証してみるとわかるそうですが、SKUごとの通期販売数のおおよそ50~55%程度になるのではないかということです。

一方、下限もあるようです。少し専門的な話になりますが、追加発注時から納品までのリードタイムの間に売れるであろう販売予測数量(例えば4週分)に、各店の基準在庫(=安全在庫;その水準を下回らなければ販売欠品はしない店頭在庫)分を足したものを基準に考えるそうです。
 従って、リードタイムが短ければ短いほど、初回生産量は少なくて済むことになります。

3)追加生産
多くのアパレル小売業のデータを見ている齊藤氏によれば、店頭やECサイトで販売がスタートしたら、2週間も立てばある程度の需要の予測が立てられるそうです。
販売がスタートしたら、売れ筋のカラー・サイズ(SKU)を中心に次の発注のタイミング(例えば4週後)までに必要な数量を計算して頂ければ、あらかじめ用意をしておいた素材・附属・資材を使って、当社が少ロット、短納期で追加生産を行うことが可能です。
 
4)販売終了とデザイン切り替え
基本的に、シーズン(販売期間)中、これらを繰り返して行きますが、その商品のライフサイクル上、需要がなくなったり、販売終了時期が迫り、もう、追加生産をする必要がなくなったりした場合、余った素材をどうするかが議論になります。

この場合、製品より在庫リスクの小さい素材のままの状態で残し、次のシーズンで使うことを検討するか、あるいは同じ素材を使ってつくることができる、これから需要のありそうな新しいデザインの商品に転用することが得策だと、齊藤氏は指摘します。同氏によれば、世界のアパレル企業の中でも、プロパー消化率が極めて高い(85~85%だそうです)ZARA(ザラ)が取り入れているのが、まさしく、この素材の使いまわしとのことです。


◆市場連動生産のご利益

このように売れ行きにあわせて、必要なカラー・サイズ(SKU)だけ追加生産を繰り返して行けば、過剰なSKU別製品在庫を抱えるリスクを抑えることができ、ほとんどの在庫が値下げをしなくても売り切れることになる、つまりプロパー消化率(正価販売率)および最終消化率(販売数量÷生産数量)が高まります。

齊藤氏の長年のアパレル製品の過剰在庫や余剰在庫のデータ検証によれば、多くの場合、カラー・サイズ、つまりSKUごとの売れ行きや残在庫のばらつきがプロパー消化率や最終消化率を下げている要因のひとつとのことです。
ということは、常に欠品しがちな売れ筋SKUの追加をタイムリーに行うことができれば、むやみに早くから値下げをしたり、大量の値下げをしなくてもよい、ということになりそうです。

同氏によれば、このような市場連動生産に取り組むことができれば、どうしても消化ができず、値下げの対象となるのは、
・量を抑えて初回に生産した在庫の中の、それでも見込みほど売れなかった、一部の色やサイズ
あるいは
・販売スタート後、需要を見込んで少量追加生産したものの、それでも見込み通り売れなかった数量分だけになるとのことです。

一般的に需要に対して、余剰在庫となるのは、過剰生産か、「死に筋(しにずじ)」と呼ばれる不人気色や端サイズ(XS,S,XL以上など)の売れ残りが原因らしいです。

しかしながら、上記のように必要な分だけ、分割生産を繰り返すことで、値下げの対象となる過剰過剰在庫を最小限に抑えることができれば、確実に消化率は高まる、という同氏の話を伺うと弊社の市場連動生産の取り組みが勇気づけられる思いです。

また、当社が関与できる領域ではありませんが、終売期に店間移動による在庫の偏在解消や残り少なくなった時に売れる店に在庫集約をかけることで、更に消化率は高まるそうです。

シーズン前の需要予測に基づく計画生産に対して、需要にあわせてつくり足す、市場連動生産のメリットについて、齊藤氏と行った勉強会で、一緒にまとめたのが以下の内容になります。


【市場連動生産を行うメリット】
★シーズン販売計画分のすべてを一気に作り込まないことによって、追加生産用のキャッシュを手元に残しておくことができる(=現預金を手元に残せる)。
★販売を始めてから、確率の高い需要予測に基づいて追加生産ができる。追加生産分の支払いは初回生産を販売して売上回収した現金を充てることができる。
★販売初動を見て売れ筋SKUを追加できるので、欠品が減り、売上・粗利額・現金が増える。
★値下げが減り、定価販売率、最終消化率が高まり、販売期間終了後の余剰在庫が減る。


齊藤氏によれば、アパレル企業において、過剰在庫と呼ばれる在庫のうち、約3割は前年の余剰在庫、つまりは繰越在庫が占めているそうです。
それらの多くは、企業の資金繰りを圧迫し、新しい商品を仕入れたり、新しい事業に投資をするような、前向きな行動への足かせになっているとのことです。

最後に、あらかじめお伝えしておかなければならないことは、市場連動生産による分割生産にもデメリットがあることです。
それは、海外や国内でも一括で大量生産するのと比べると、少量分割生産では、どうしても若干製品1枚あたりのコスト(生産原価と配送コストなど)が割高になります。

しかしながら、在庫リスクを抱え込まないことにより、値下げや余剰在庫がなくなることで、粗利が増え、キャッシュフローが豊かになることで、コストアップに余りある利益を生み出すことができることは間違いない、と齊藤氏は指摘します。

 必要な分だけ無駄なくつくり、需要のある分だけ無駄なくつくり足す。

異業種トヨタ自動車のジャスト・イン・タイムから学んだことは、季節性と流行に左右されるアパレル生産にも活かすことができるのです。


次回は、「3DモデリングとTSS(トヨタ生産方式)で実現する、高速効率アパレル生産」についてです。



<参考資料> 

従来の売り減らし型計画生産と市場連動生産にした時の在庫の持ち方の違い シミュレーション 
※一括生産と分割生産の在庫の持ち方の違いを齊藤氏に提供頂いたデータでグラフ化したもの

【シミュレーション1】 従来型の売り減らし型 販売 
シーズン仕入れ3,400枚の商品 23週間で 90%消化で 約3,000枚の販売 残 311枚

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もし、リードタイム 4週間で追加生産が出来たら・・・

【シミュレーション2】 市場連動生産型 販売
シーズン仕入れ3,000枚の商品 23週間中 初回発注1,000、追加1,000x2回で売り切り
売り切れる理由 売上に連動し、必要なSKUが欠品しないように、バランス良く追加発注
売れ筋SKU補充により、死に筋SKU(色)も活かされ、販売促進。

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減らすことができる過剰在庫数=キャッシュ(枚分)

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数量をグラフで表すと・・・
同じ売上(青の折れ線グラフ)でも

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在庫(オレンジの棒グラフ)の中味が悪化して行く。


市場連動生産の在庫(オレンジの棒グラフ)は上記の3分の1程度の水準

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なおかつ、追加が入る度にSKUの中味が需要にあわせて整えられる=少ない在庫で売上確保。
シーズン後半の在庫の中味が改善されて行く状態。=消化率は高まる。

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