男酒日記 89日目「ある僧侶の100日修行」

プロデュースしていたラジオ番組で、神楽坂のお坊さんにご出演いただいていたことがある。
互井観章さんという、当時40代半ば、いまの私と同じような歳のころの僧侶であった。
観章さんは「東京ボーズコレクション」を手掛けるなど、横紙破りのお坊さんとして知名度を上げていた。
いかにもこれからテレビでコメンテーターでもつとめそうな雰囲気であった。
そんなころ、いきなり100日間の荒行に出てしまった。
ごくわずかの睡眠時間でひたすら修行に打ち込む日々を送ると聞いて、私はそのわけを尋ねてみた。
すると観章さんは「いまやらないと、ダメになるからですョ」とニコニコしながらおっしゃった。
「本業」以外でも誘惑が増えてきたこの時期だからこそ、我が身を律しなければならないというのである。
当時の私はその意味がよくわからなかったが、いまならわかるような気がする。
思えば、観章さんの100日修業は、私にとっての断酒ではなかったか。
男の四十代、自覚的に生きるか漫然と過ごすか。おのれを疑うところからすべては始まるもののようである。

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