男酒日記 91日目「『心中の賊』を破れば」

2時に起きるべく、7時ころ寝床に就くようにしてから1週間ほど経とうとしている。
結果は惨憺たるものである。あれだけ眠気が襲って来ていた時間帯なのに、寝ようと思うと眠れない。
たとえ寝ついたとしても1時間ほどで目覚めてしまい、その後、寝床でもんどり打って、結局起き出してしまう。
寝ようとすれば眠れぬ。起きようとすれば眠くなる。こういう時つくづく思う。心とはなんと偏屈なものか。
ひょっとしたら身中には、私の理性とは別個の知性が巣食っていて、そいつが邪魔をするのかもしれない。
天邪鬼とよばれるものがそれなのだろうか。それとも潜在意識か、はたまた野生の本能というやつなのか。
何なのかわからないから、ひとまず「ヤツ」とよぼう。
ヤツの存在を特に感じるのはダイエット中だ。
急激に痩せると、ヤツが「お前、いったい何をやろうとしているんだ? 俺を殺す気か」と問いかけてきて、抵抗を始める(ヤツとの戦いに敗れるとリバウンドする)のである。
ヤツからすれば、宿主たる身体が急激にやつれてゆくことは、おのれの生き死にに直結する問題だ。心配になるのも無理もない。
一方で、ヤツは私の頭脳で考えていることは理解できないらしく、ダイエットとは何たるかはわかっていない様子である(なんだか我が子をみるようだ)。
ダイエットが厄介なのは、贅肉を落とすだけでなく、ヤツも宥めなければならないからだ。
思うに、この図式は自分と世間との関係によく似ている。
世間に何らか作用すれば、何らかの反作用が返ってくる。
変革を成し、それを安定させるには、辛抱強く働きかけなければならない。それはヤツを手なずけ、減量を成功させるのとよく似ている。
「自分を改革できない者が世の中なんて改革できるわけがない」といったのは誰だったか(コヴィー博士だったかな)。
陽明学でもいう。
「山中の賊を破るは易し、心中の賊を破るは難し」
世間との関係に悩んでいる諸君、まずはダイエットか断酒でもして「心中の賊」を打倒してみてはいかがだろうか。
その勢いをかって世に打って出れば、「山中の賊」など、意外とちょろく感じられるはずだから。

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