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横田一の政界ウォッチ⑬

「被害者救済新法」で妥協した立民


 12月10日に閉幕した臨時国会で被害者救済法案が与野党4党の賛成で成立したが、旧統一教会問題に長年取り組む「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」は新法成立直後の会見で「ないよりましという程度のものであって、これで救済の幅が広がったとは到底言えない」(山口広代表世話人)と酷評した。

 旧統一教会問題を半世紀追い続ける中村敦夫元参院議員も「救済法案は『お粗末過ぎる』」と銘打った12月9日付朝日新聞の記事で、次のように一刀両断にした。「『やっている風』を示すために政権はその場しのぎの法案を出し、野党も反対すれば無責任と言われるのを恐れて妥協した」、「旧統一教会は40年ほど前からマインドコントロールを駆使して霊感商法などで収益を得ていた団体なのに、今さら『配慮義務』を求めてどうするのか。『十分に』と加えてもなんの効果もない」。

 驚くべきことに安倍元首相銃撃事件から約半年が経っても、韓国教団への国富流出(日本人の高額献金)をほとんど阻止できない新規立法で臨時国会は閉幕。「これからも高額献金集めができる」という旧統一教会の高笑いが聞こえてくるのだ。

 お粗末な結末を招いた“A級戦犯”は、実効性に乏しい政府案しか出さなかった岸田政権だが、不十分な修正のまま賛成に回った立民と維新も“共犯者”といえる。

 ただし臨時国会最終盤までは、立民は“被害者救済目線”を貫いていた。先月号で紹介した通り、国対ヒアリングに被害者や全国弁連の弁護士を招いて意見聴取しながら、政府案の実効性をチェック。泉健太代表も12月2日、茨城県議選の応援演説でこう訴えていたのだ。「岸田さん、茂木さんがどれだけ譲ったのかではない。被害当事者が救われる法案なのかが一番です」、「どの党が賛成する反対するのではなくて、困っている方々に寄り添って戦い抜いていきたい」。

 しかし実際には、土壇場で立民は〝被害者救済目線”をかなぐり捨て
〝密室談合決着”に走った。茂木幹事長と岡田幹事長が同月6日夕に面談、政府案の配慮義務に「十分な」を入れることで折り合うと、翌7日に安住淳国対委員長が「『十分な』を入れることで(立民の)対応は大きく前進する」と国会内で語った。これを機に立民は賛成に回ったのだ。

 だが、7日に参考人招致をされた全国弁連の川井康雄事務局長は、安住氏絶賛の“切り札的文言”である「十分な」について、「(入っても入らなくても)さほど差は生じない」と一蹴。「配慮義務として規定するだけでは、ほとんど役に立たないと言わざるをえない」と実効性の低さを指摘、「禁止行為」にする抜本的修正を求めていたのだ。

 それなのに立民は、川井氏発言を受けても与党にさらなる修正を求めず、茂木幹事長の「十分」付加の譲歩を受けて維新と共に賛成に回った。密室談合決着に走ったのだ。

 茨城での大嘘発言について聞くと、泉代表は「全国弁連とは思いは一緒」と反論したが、全国弁連は国会で実効性に疑問符をつけていた。なぜ泉代表は変節したのか。「立憲『共闘』意識、賛成に傾く」と銘打った12月7日付朝日新聞に謎を解く鍵があった。「立憲内には今国会の『共闘』を成果として、来年の通常国会でも継続させようとの思惑があり、幹部は『注目法案で維新との対決姿勢が異なると、積み上げてきた関係が崩れてしまう』と話す」。

 維新共闘派幹部の意向に沿って、政策(法案)よりも政局(党利党略)を優先したとしか見えないのだ。こうして立民は、「被害者救済目線に立たない岸田政権」と批判して反対するのではなく、ザル法に賛成して自公をアシストすることになった。変節漢の泉代表は野党第一党首失格としか言いようがないのだ。


よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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