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横田一の政界ウォッチ⑥

参院選の前哨戦となる新潟県知事選


『政経東北』2022年6月号より

 参院選の前哨戦と位置づけられる「新潟県知事選」(5月29日投開票)は、現職の花角英世知事(自民・公明・国民民主支持)と会社役員の片桐奈保美候補(共産・れいわ・社民推薦)の一騎打ちで、最大の争点は原発問題だった。原発再稼働反対を訴える片桐氏は告示日の5月12日、第一声の前に世界最大の柏崎刈羽原子力発電所近くの砂浜に立ち、手紙付の風船を支持者と共に解き放った。原発事故時の放射能汚染地域を調べるのが目的で、その際に訴えたのも出馬会見から繰り返している原発攻撃リスクについてだった。

 「ウクライナのヨーロッパ最大の原発が攻撃されました。この柏崎刈羽原発も7号機まで動くと世界最大の原発です。これが戦争で攻撃されるようなことがあってはなりません。新潟でも他人事ではない。私は原発を再稼働させません。国の言いなりにはなりません」

 先月号でも紹介したが、ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー政策をめぐる国論は二分。原油価格高騰を理由に原発再稼働を促進しようとする自民党や維新と、原発攻撃リスクを直視して原発ゼロの加速をすべきとする野党が対決し始めたが、この対立軸を新潟県知事選があらためて浮き彫りにすることになった。

 両候補の街頭演説では、参院選新潟選挙区の予定候補(現職の森裕子参院議員と新人の小林一大県議)が隣でマイクを握ることもあり、県知事選が参院選前哨戦の様相も呈していた。そのため、「原発再稼働促進か原発ゼロ加速か」は参院選の一大争点となるのは間違いないのだ。

 片桐氏と同じように原発攻撃リスクを直視したのが、枝野幸男・前立憲民主党代表。5月4日に京都で久しぶりに街頭演説。代表辞任後は表舞台に立つ機会は激減したが、熱のこもった“枝野節”は健在だった。

 「ウクライナにロシアが軍事侵攻した。今の政府や与党や、与党だか野党だか分からない人たちは、この機会に行け行けドンドン、ノー天気なことを言っています。でも例えば、ロシアがウクライナにやっていることを見て最初に気がつかないといけないことは、私は『早く原発を止めろ』だと思う(拍手)」

 枝野氏の着眼点は片桐氏と瓜二つで、再稼働促進派を批判するのもよく似ていた。枝野氏はこう続けた。

 「海外にもし日本を攻撃しようという国があったら核装備なんか要りません。日本の原発に一発、通常ミサイルを撃ち込めば、原爆を撃ち込んだのと同じことになるのではないか。それなのに、こういうリアルなリスクについて(国会審議で)全然出てこない。むしろ、この機会に原発をもっともっと稼働させようというピント外れのことをやっている」

 新潟県知事選だけでなく参院選にも共通する対立軸がさらに明確になる。それは、ウクライナ侵攻便乗型(火事場泥棒的)の再稼働促進勢力と、原発攻撃リスク直視の原発ゼロ加速勢力が激突するというものだ。

 同じような内容の街宣を現在の野党第一党党首の泉健太代表が新潟ですれば、片桐候補にも森参院議員にも応援になるし、参院選の一大争点化にもプラスだ。しかし選挙戦終盤(5月25日の時点)になっても、泉代表の新潟入りは実現していない。いち早く応援に駆け付けた野党党首は、れいわ新選組の山本太郎代表だった。5月18日、長岡駅近くで片桐氏への支援を訴えたのだ。

 「リスクが大きいのが世界最大の新潟の柏崎刈羽原発です」「新潟県民の生命財産ばかりか、この国を巻き込むような再稼働は許されません」「新潟から原発をやめましょう。その責任を果たすのはこの人、片桐さんしかいない」

 泉代表が山本氏や枝野氏を見習って発信力をアップするのかが、原発問題の争点化、ひいては参院選の結果を左右する一大要因なのだ。



よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。
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