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【政経東北】汚染水放出の「海外リスク」―巻頭言2022.12

 東京電力福島第一原発内に溜まり続ける浄化処理後の汚染水について、政府と東電は海洋放出に向けた海底トンネル工事や漁業賠償の準備を着々と進めている。健康被害やいわゆる風評被害が発生する懸念があるため、反対する声も多いのに、立ち止まって説明・対話する姿勢は見えない。仮に海洋放出後、トラブルが起きても、この調子で誤魔化されるのではないか――と福島県民としては懸念する。

 見過ごされがちなのは海外の反応だ。韓国、台湾、中国が「海洋汚染につながる」と反対しており、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領も9月、国連総会の演説で日本を非難した。こうした中で海洋放出を強行すれば、海外から責任を問われ、経済的損失分の賠償を求められることもあるのではないか。

 本誌で「廃炉の流儀」を連載している尾松亮氏に意見を求めたところ、「隣国の漁業団体や政府から処理水海洋放出に対する訴訟が起こされることは想定できる」としたうえで、次のように述べた。

 「現時点では、西太平洋・環日本海で放射性物質による海洋汚染を規制する国際法の枠組みがないため、被害額を確定して法的効力のある賠償請求をすることは難しい面があります。しかし国連や国際海洋法裁判所などあらゆる場で、日本の汚染責任が繰り返し指摘され、エンドレスな論争に発展し得る。政府や東電がいくら『海洋放出の影響は軽微』と主張しても、汚染者の言い分でしかない。政府や東電は『海洋放出以外の選択肢』を本当に探り尽くしたのか、東電の行う環境影響評価は妥当なものか、国際社会から問われ続けることになるでしょう」

 これまでの対応も含め責任を問われる、と。

 尾松氏によると、北東大西洋では加盟国が共同で放射性物質による海洋汚染をゼロにすることを目指し、相互に放出量の報告と削減を義務付ける条約を締結している(OSPAR条約)。英仏の再処理施設による汚染を懸念するアイルランドや北欧諸国が、海洋汚染削減を求める場として機能してきた。

 「『中国や韓国の原子力施設もトリチウムを含む水を放出し海を汚染しているので、日本が流しても問題ない』というのは成熟した法治国家の言い分ではない。北東アジアでもOSPAR条約のような国際法の枠組みを作り、汚染削減やモニタリングの共通ルールを明確化していく努力が求められます」(尾松氏)

 来春の海洋放出に向けて突っ走る国と東電だが、一度立ち止まって議論を尽くす必要があるのではないか。その時間を確保するためにも、陸上での長期保管をあらためて模索すべきだ。

(志賀)

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