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ロシア大統領選挙|【畠山理仁】選挙古今東西㊽

 3月17日にロシア大統領選挙が行われる。今のところ通算5選を目指す現職、プーチン大統領の他に有力な候補者は出そうにない。2月16日には反体制派指導者であるアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で死亡したというニュースも報じられた。おそらく選挙戦としてのロシア大統領選挙は、今回もあまり盛り上がらないのではないか。

 私はロシア大統領選挙を現地で取材したことがある。今から24年前、2000年のことだ。ロシア訪問前から現地の通訳さんと連絡を取って準備したが、訪問前から不穏な空気が漂っていた。

 「モスクワに来てもプーチンには会えないと思います。プーチンは大統領選挙の選挙運動をほとんどしていません。本当に来るんですか?」

 まさかの情報に驚いた。国のリーダーを決める大統領選挙なのに、最有力候補が選挙運動をしないとは。

 当時はチェチェン紛争が激しかったこともあり、プーチンは大統領としての執務を優先していた。モスクワで通訳さんと合流すると、彼は現地の新聞を見せながらこう言った。

 「プーチンは今日、戦闘機に乗ってチェチェンに向かいました。これがその写真です。生のプーチンを見るのは難しいと思います」

 新聞の一面にはヘルメットを被って戦闘機のコックピットに座るプーチンの写真が掲載されていた。

 もちろん、プーチンの他にも候補者はいた。ロシア連邦共産党のジュガーノフ、ヤブロコのヤブリンスキー、ロシア自由民主党のジリノフスキーなど、11人の候補者による大統領選挙が行われていた。

 しかし、なにかが違う。街中に出てもほとんど選挙の匂いがしない。その数カ月前に訪れた台湾総統選挙で見たような巨大ポスターもない。街頭集会は何度かあったが、規模としては日本の市長選挙ほどのミニ集会だ。本当に大統領選なのか。

 この選挙でプーチンに続いて2位になったのは、共産党のジュガーノフだ。プーチンの得票率が52・94%だったのに対して得票率は29・21%。ダブルスコアまでは行かなかったが、ジュガーノフの展開する主張を聞いてびっくりした。

 「いま支給している年金の額を3倍に増やします」

 本人も当選する可能性がないと思っているのか、いきなり実現不可能とも思える大盤振る舞いの政策を言い出す。集会が行われたのは小さな教会で、取材に来ていた報道陣はわずか10人ほどしかいなかった。

 かつて「北海道に原爆を落とす」と発言した極右政治家、ロシア自由民主党のジリノフスキーはモスクワ市内でパレードを行っていた。パレード中に直撃取材をすると、記者の肩を引き寄せてこう言った。

 「日本とは仲良くする!」

 おお! それはすばらしい!

 「でも、北方領土は返さない!」

 そう言って記者を突き放した。街頭ではびっくりする演説もしていた。

 「トルコの大地震を起こしたのはロシアの地震兵器だ!」

 あなたにとって理想的な選挙とは、どんなものだろうか?



はたけやま・みちよし 1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大在学中より週刊誌などで取材活動開始。選挙を中心に取材しており、『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(2017年、集英社、2019年11月に文庫化)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。
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