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【政経東北】真に理解を深める取り組み|巻頭言2023.7

 福島民報が福島テレビと共同で行った県民世論調査によると、東電福島第一原発の汚染水を海洋放出した場合、「大きな風評被害が起きる」「ある程度風評被害が起きる」との回答は合わせて87・8%に上った(6月19日付1面)。

 東電は6月26日、海洋放出に必要な設備の工事を完了したと発表した。政府は今年初め、放出開始時期を「春から夏ごろ」と示した。放出がいよいよ近付いていることを実感するが、それに伴う風評被害はほとんどの県民が避けられないと認識している。

 一方で、海洋放出する政府方針が国内外で理解されていると思うかという質問には「かなり理解が広がっている」「少しは理解が広がっている」との回答が合わせて50・0%となり、質問項目を設定した昨年3月以降、初めて半数に達したという。放出への理解を得ようとする政府の取り組みが、県民に少しずつ評価されていることをうかがわせる。しかし、ジャーナリストの牧内昇平氏が本誌に執筆しているリポートを読めば、政府の取り組みを真に受けてはいけないことは明白だ。

 詳細は氏のリポートに譲るが、一番の問題点は政府が「解決方法は海洋放出しかない」と頑なに押し通していることだ。民間からは他の方法も提案されているのに、政府は「前例がない」「安全基準をつくるのに時間がかかる」とはなも引っかけない。

 海洋放出のデメリットを紹介していないことも違和感がある。政府は「環境や人体への影響は考えられない」と言うが、悪影響を指摘する専門家や論文は存在する。県民に「放出に賛成か、反対か」を聞くならメリットとデメリットを示し、判断してもらうのが真っ当なやり方だ。そもそも「デメリットを示せばマイナスに働く」との考え方がおかしい。

 もちろん、デメリットを知れば「絶対反対」という人はいるだろう。しかし「その程度のデメリットなら許容範囲」と捉える人、「それならメリットの方が上回っている」と考える人、「だったらこういう対策を講じればいい」と提案する人など、人によってさまざまな受け止めがあるはず。そこに目を向けようとせずメリットだけを強調し「海洋放出しかない」と誘導するから、牧内氏は「民主主義からかけ離れている」と批判しているのだ。

 不都合なことを隠すのではなく、正直に明かし、判断材料にしてもらう。これこそが、政府がやるべき「真に理解を深める取り組み」ではないか。それをやらずに「県民世論調査で初の50%到達」と言われても、素直に受け止められない。(佐藤仁)

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