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「与野党対決」岩手県知事選の裏構図|横田一の政界ウォッチ㉑

 与野党対決となる岩手県知事選が8月17日に告示、野党(立民・共産・国民民主・社民)が支援する達増拓也知事と、自公が支援、支持する新人の千葉絢子・前県議の一騎打ちが始まった。全国の注目を集めているのは、小沢一郎衆院議員の「最後の戦い」とも言われているためだ。

 2021年の総選挙では小選挙区で初めて敗れて比例復活。昨年の参院選岩手選挙区でも元秘書の現職・木戸口英司氏(立民)が自民党の新人・広瀬めぐみ氏に敗れた。その勢いに乗って自民党は地元テレビ局出身の千葉氏に出馬要請、小沢氏最側近の達増知事5選を阻み、最後の砦を奪取しようとしていた。

 知名度が高い女性候補の擁立で「激戦必至」と見られていたが、広瀬参院議員も参加した7月末のフランス視察への批判が噴出、神風が達増知事陣営に吹いたという。

 「『参院選に続け』とばかりに千葉候補は、広瀬参院議員と一緒に活動。広瀬氏も千葉氏とのツーショット写真や応援演説の写真をSNS上にアップしていた。そんな二人三脚がエッフェル塔の写真が知れ渡って以降、ピタリと止まってしまった。勝利の女神になるはずの広瀬氏が“動く減票マシーン”になったような形です」(岩手ウォッチャー)

 8月15日付の日刊ゲンダイは、広瀬氏が松川るい参院議員らと同様、SNSでパリでの飲食などの写真を投稿したと紹介、こう続けていた。

 「(パリ視察関連の)くだんの投稿を削除し、今月2日を最後に新規の投稿もストップ」「地元では『広瀬さんを街頭に立たせず、徹底的に隠す』という噂も流れているという」。

 このステルス作戦が実行されているのかを確かめに岩手入りしたのは2日後の告示日。千葉氏の第一声を聞きにいくと、応援演説をした鈴木俊一財務大臣の隣に広瀬氏がいた。

 そこで終了後に直撃、「表に出るとマイナスになるという指摘もあるが」と聞くと、「コメントできない」「(選対)会議があるので」と言うだけ。「フランスに行くよりも(泉房穂)前明石市長に話を聞いた方が早いのではないか。明石に行ったのか」とも声かけ質問をしたが、一言も答えないまま立ち去った。

 同日夜には千葉氏にも「フランス視察で広瀬議員が聞いてきた話で、県政にすぐに生かせそうな施策は特にはなかったのか」と聞いたが、「今のところはないのではないのでしょうか」「他県、他国でやっている施策を岩手にすぐというのは少し性急すぎるかなと思う」と否定的な回答。「県政に生かせない視察なら観光旅行と言われても仕方がない」と思いつつ、「広瀬議員が一緒に街宣をしたらマイナス効果にならないか」とも聞いたが、「メディアがそう書くからそうなるのだと思う」と報道批判。質問の意図を逆質問してきたので「日刊ゲンダイの記事に出ている」と伝えると、こう答えた。「日刊ゲンダイがそれだけ権威があるのか。私はそうは思わないので、その手の質問には答えない」。

 千葉氏の不安材料は他にもある。岸田政権が強行した処理水(汚染水)の放出が争点になりつつある。立民の岡田克也幹事長は8月20日、陸前高田市での達増知事の応援演説で「(関係者の)理解なくしてそんなことはしないと約束してきた。岸田首相には納得のいく答えを出してほしい」と漁業者らの納得が不可欠との考えを強調。共産の小池晃書記局長も「関係者の同意なしにはいかなる処理も行わないのが政府・東電の約束ではないか」、「岸田政権の暴走を岩手から止めよう」と訴えた。

 対決の構図が鮮明になる。「処理水放出賛成の自公支援、支持候補VS放出反対の野党支援候補」。フランス視察に加え、処理水放出開始がどんな影響を与えるのか。岩手県知事選は今号が店頭に並ぶ直前の9月3日に投開票される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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