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政府・東電の説明は「壮大な言い訳」ではないのか|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊽

 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)核災害の発生から、約13年が経過しようとしています。

 今も続いているフクイチへの対処とは即ち、膨大な量の放射性廃棄物への対処であり、政府・東電は、その一環として、昨年8月に「処理水」(※1)の海洋への希釈投棄を開始しました。

 11月までに3回実施され、約2・3万㌧が投棄(放出)されました。2024年3月上旬には4回目が実施されていると思われます。

 2022年まで、フクイチ構内の汚染水(放射性液体廃棄物)の貯留量は増える一方でしたが、昨年は放出が開始された為、ほぼ横ばいでした(「まとめ1」参照)。


 固体も含めた廃棄物の保管容量の空き容量や減容・減量策の進捗状況を確認すると、「処理水の希釈投棄が物理的な理由で不可避だった」とは言い難いです。

 6つの根拠を箇条書きします。

 1、「まとめ1」の下段に点線囲みで記載したように、放出しなかったとしても、2023年末時点で、処理水・処理途上水用のタンク容量は2万㌧以上が空いています。

 2、タンク貯留水の増加量は年を追う毎に減少しており、1で計算したように、放出しなかったとしても、増加量は過去最少量です。

 3、東電は汚染水発生量の更なる抑制に取り組んでおり、3号の建屋ギャップ(隣接する建屋と建屋の間の地下の隙間)にモルタルを充填して地下水の流入口を塞ごうとしています。今年4月以降、4号建屋周辺で放射線防護装備を装着しての作業成立性を確認予定です。成立性が確認されれば、2025年度までに3号建屋ギャップで施工予定です(注2)。3号建屋への流入量(約36㌧/日)は1~4号建屋への流入量(約70㌧/日)の約5割を占めており(2022年の計算値。雨水含む/注3)、汚染水発生量の更なる低減に大きく寄与すると予想されます。

 4、1号原子炉建屋では大型カバーの設置工事が進められており、2025年度にカバーがかけられる予定です。これにより、同建屋への雨水の流入がほぼ無くなると思われます。

 5、フランジタンク(ボルト締めタンク)を解体中のEタンクエリアが空いています。約4・9万㌧容量のタンクが設置されていました。このエリアはデブリ(溶融燃料)取り出し関連設備の設置場所として転用予定です(注4)。開始時期が明確に見通せないデブリ取り出しに用地を割り当てる余裕があるなら、現実に発生し続けている液体廃棄物を貯留する新たなタンクの設置が優先されるべきでしょう。1で示した空き容量と合わせれば、少なくとも7万㌧程度の貯留容量は確保できた筈です。

 6、焼却設備の稼働等の効果も有り、固体廃棄物の保管量が減少傾向です(「まとめ2―1・2」参照)。使用済み保護衣や伐採木の屋外保管が解消されれば、屋外保管エリアを整理・集約し、新たなタンク用地を確保できるのではないでしょうか? 現に東電は、保管エリアの一部に関して、具体的な撤去方針を原子力規制庁に提出しています(注5)。



 根拠は以上です。

 私見ですが、政府・東電は「放出に反対する根拠」が強化される情報が判明する前に、海洋放出を開始したかったのではないでしょうか? 結果論かも知れませんが、8月下旬という開始時期は「放出反対の論拠を強化する情報が判明する前」に「放出の既成事実を積み重ねる」には絶妙のタイミングでした。しかも、国会も開かれていませんでした。

 私には、政府・東電が、汚染水の環境中への放出を回避する可能性を真剣に探ったとは考えられません(紙幅の関係から、その理由の推測は避けます)。

 処理水の海洋放出に関する政府・東電の説明は、「放出を正当化する壮大な言い訳」ではないでしょうか。

 注1/ALPS(アルプス/多核種除去設備)で一度でも放射性核種の濃度低減処理を行った放射性液体廃棄物。当連載では簡略化の為「処理水」と記載。

 注2/2024年1月30日付

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/osensuisyori/2024/27_04rr.pdf


 注3/出典は注2に同じ。PDFの36頁

 注4/2024年1月25日付(PDFの23・24頁)

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2024/01/01/3-1-2.pdf


 注5/2024年1月15日付

https://www2.nra.go.jp/data/000466293.pdf


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