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ハンフォードモデルを問う⑤―【尾松亮】廃炉の流儀 連載30

 今年5月に成立した改正福島復興特措法では、旧避難指示区域内に国際研究拠点を創り、その周辺に新規住民の定住を進める方針が示されている。米国ハンフォード核サイト周辺地域の社会経済発展に貢献した「国立パシフィックノースウェスト研究所」のような中核研究機関をつくる必要がある、というのが国際研究拠点設立の理由だ。

 設立される「福島国際研究教育機構」は研究開発だけでなく、その成果を地域の産業育成に結びつけることが使命である。この機構は本当に地域の主体的な復興に貢献するものになるのだろうか。改正福島復興特措法の内容を確認すると、同機構の事業内容の決定に際して、地元地域が主体的に関与する余地がかなり限定されていることがわかる。

 まず、同機構の基本計画の策定については「関係行政機関、福島県知事の意見を聞いて政府が計画を立てる」ことになっている。そして「研究開発基本計画の策定に際して内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の意見を聞く」とされる。浜通り復興の中核とされる「機構」の基本計画の策定主体は中央政府なのだ。そして計画策定に際しては、福島県知事の意見とともに内閣府の組織であるCSTIの意見が重視される。

 このCSTIについては学術界から批判がある。「政府が選んだ人で構成されている」「CSTIのプロジェクトには産業界の意向が強く働いている」「やらせ公募がある」「議事録も非公開」など。例えば池内了・名古屋大学名誉教授は「会員の選考に当たって学術界の多くの人の目が入る学術会議と違い、CSTIは閣僚のほか、政府が選んだ人で構成でき、人数もはるかに少ない。政府にとって割とコントロールしやすい会議と言える」と指摘している(須田桃子「科学技術の司令塔」の変質と日本の研究力衰退=『学術の動向』2021年5月号)。CSTIが運営するプロジェクトには産業界の意向が強く働いている、プログラムディレクターの選定に際して内閣府の「やらせ公募」があった、などの批判もある。

 こうして中央政府が策定する基本計画に基づいて、複数の省庁にまたがる主務大臣が新産業・研究開発の中期目標(7年)を定め、中期計画を認可するという。このように、基本計画だけでなく中期計画についても中央政府のグリップが強い仕組みになっている。機構の活動実績評価についても主務大臣が評価主体となり、県知事及び上述のCSTIの意見を反映する。

 つまり、政府主導で決めた研究・産業化計画を、浜通りで推進するのがこの「福島国際研究教育機構」なのだ。原発事故の影響を受けた地元住民たちはどんな「産業振興」を願っているのか。それを丁寧に探って計画に反映させる仕組みはない。

 あえて嫌な予想をするならば、CSTIの意見を反映しつつ政府が決める計画の中に「新型原子炉の研究開発」や「汚染土壌の再利用」などの項目が並ぶことも十分ありうる。その際に「県知事の意見を聞く」「県も参加する協議会を設置する」程度しか、地元意見を伝える機会は用意されていない。10月に予定される福島県知事選では、この「機構」の在り方をどうとらえるのか、候補者の立場を問わねばならない。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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