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汚染水問題で強硬姿勢の岸田政権|横田一の政界ウォッチ⑳

 汚染水(処理水)問題で被災地の意向を切り捨てる岸田政権の強権的体質が露わになっている。

 宮城県漁業協同組合と福島、岩手、宮城の3県の生活協同組合連合会は7月7日、汚染水の海洋放出に反対する署名約3万3000筆を東京電力と経産省に提出した。既に提出した分を合計すると約25万4000筆にもなる署名は、海洋放出されると震災復興の努力が水泡に帰すことを強調しつつ、国民の理解が得られる別の方法での処理を求めてもいた。

 提出行動で福島県生協連の吉川毅一顧問は、「国民的な理解や国際社会の理解醸成、安全性の担保が十分にないまま進められれば、科学的に安全とされているものでも、新たな風評被害など地域に影響が出る」と指摘したが、経産省職員は「(海洋放出は)先延ばしできない課題」と反論。「今夏の放出」にこだわる岸田政権の姿勢が浮き彫りになった。

 経産省トップの西村康稔大臣も7月11日に福島県漁連の会合に出席し、IAEAの報告書を根拠に「科学的に安全」と説明。終了後の会見でも「今夏に海洋放出する政府の方針に変わりはない」と明言したのだ。

 この大臣発言を受けて私は、「今夏に放出すると、風評被害は確実だと。『処理水放出後の海産物は買わない』と海外の取引先の声もあって、このまま今、放出をすると地元の漁業に大打撃を与えて、復興の足かせになるのではないかというふうに考えないのか」と問い質すと、西村大臣は次のように答えた。

 「今日も非常に大きな懸念の声を聞きました。私の地元、兵庫県明石市と淡路島は漁業が盛んなところで、地元の漁業関係者の方々からも風評に対する強い懸念を聞いている。そうした中で今日、さらに強い声を聞いたので、皆さんの懸念に寄り添いながら、対応をしなければならないと改めて強く感じた。今日も、風評が万が一出た場合の対策について説明をしたが、『販路開拓をしっかりとやってくれ』、『消費者に対してもしっかりと安全性について説明して欲しい』という強い声もいただいた」、「できる限り、漁業者の皆さんに使い勝手のいい仕組みで、支援がしていけるように考えている。海外にもIAEAの報告書であるとか科学的根拠に基づいたデータも示しながら、安全性について丁寧に内外に説明をしていきたいと考えている。風評対策に全力をあげていく決意で臨んでいきたいと思っている」。

 説明ぶりは丁寧でも、内容は札ビラで漁業関係者の頬を叩いて放出を認めさせようとするもの。そこで、

「(安全の説明をしても)海外への『安心』が十分に確保されていないのに放出をしたら(風評)被害が出るのは当たり前ではないか。(今夏の放出は)時期が早すぎるのではないか。なぜ諸外国の安心を得られるまで待たないのか」と再質問をしたが、西村大臣は「私共として丁寧に説明をしていきたいと考えている」と答えるだけ。そこで「地元の漁業を潰すつもりなのか。復興の足かせになると思わないのか」とも聞いたが、「漁業者の皆さんが生業をずっと継続していけるように、責任を持って取り組む」という回答で事足りた。反対署名にある「放出以外の代替案検討」に触れる発言は皆無だった。

 中国や韓国など諸外国からの理解が不十分なまま海洋放出を始めれば、風評被害が出るのは確実だ。

 反対署名提出に立ち会った宮城生協理事の林薫平准教授(福島大学)は「この夏に放出するのは時期尚早。もっと国民的な議論をすることが必要」と話す。11日には「復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議」(林氏が事務局長)が設立、地元関係者が議論を開始した。岸田政権の方針押し付けに抗する動きがさらに強まった形。岸田首相が復興を台無しにしかねない海洋放出を強行するのかが注目される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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