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働く現場を見ていない東京電力|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊺

 今年10月25日、東京電力・福島第一原子力発電所(「フクイチ」と略)では増設ALPS(注1)の配管洗浄中にホースが外れて放射性廃液が飛び散り、協力企業従業員5名がその廃液を浴びる被曝事故が発生しました。その内2名が福島県立医科大学附属病院へ搬送されています(お2人は検査と処置を受け、10月28日に退院。11月半ば時点で体調の変化や皮膚の異常は確認されていないとのこと/東電のリリースより)。

 廃液を浴びた方達に、今回のことが原因での健康影響が生じないことを心よりお祈りいたします。

 作業の発注元である東京電力ホールディングスと、元請けの東芝エネルギーシステムズ株式会社は、11月16日に、今回の事故原因と再発防止策に関して報告書を公表しました(注2・3)。

 この報告書を読んで、私が悪い意味で注目したのは、東電の再発防止策です。東電の報告書の「7、管理面の対策」の内容の一部を簡略化して紹介します。

 1「東芝を含めた元請けの作業について、初めて実施する作業、作業場所・手順が変わる等、作業に変化がある場合は、現場作業が始まる前に必ず(東電社員が)誰が作業班長を担っているか、役割を遂行しているか、適切な防護装備を着用しているか等の観点で、防護指示書と現場実態の整合性を確認する」

 2「東電の工事管理員が11月6~10日に構内の現場作業を確認したところ、防護指示書に具体的な保護具の記載欄が無い事例が確認されたので、元請企業に具体的な保護具の記載を依頼した。東電の工事共通仕様書の標準様式にも具体的な保護具の記載箇所がないため、様式例の見直しを検討する」

 この内容から、次のことが分かります。

 1、作業班長の担い手や、書類の内容と現場の整合性を、東電自らが確認する運用はされていなかった(だから、今後、義務的に確認する)。

 2、今回の確認を行うまで、防護指示書の記載や様式の不備に気付かなかった(だから、今後、記載内容や書式を見直す)。

 フクイチに関して一義的な責任を負っているのは東電であり、発注者責任も東電に有ります。その東電が、元請けの指示・作業内容が、発注通りであるかどうか、自らの責任で確認していなかったのです。書類の様式についても、東電の社員の誰も今まで気付かなかったのでしょうか?

 私は、東電の報告書を読んで、「フクイチ過労死訴訟」を思い出さずにはいられませんでした(「まとめ1」参照)。


 2017年10月26日に猪狩忠昭さんが意識不明に陥った時、猪狩さんと一緒にいたのも、猪狩さんを構内ERまで社用車で搬送したのも、協力会社の人です。裁判所が事実認定した中で東電社員が「登場」するのは、ERに着いた時からです(尚、裁判での事実認定には疑問が多く有りますが、本稿は訴訟を論ずることが目的ではないので割愛します。詳細は筆者のブログに記載/注4)。

 今年10月の廃液飛散事故との最大の共通点は、「東電の社員が現場を見ていない」ことです。

 廃液飛散事故を受けて、東電が現場への関与を強めるのなら、責任の明確化という観点から僅かでも前進ではあるでしょう。

 ですが「働く人を守り、事業者の責任を明確化」するには、フクイチに入域している放射線業務従事者の9割弱が協力企業従業員という現実(「まとめ2」参照)を変える必要があるのではないでしょうか?


 本来は逆でしょう。東電の収益源だった施設です。東電が管理している施設です。東電の社員こそが9割を占めていて然るべきです。

 世界最大の核災害の現場で被曝しながら働いている人の約9割が、現場に責任を負っている事業者に雇用されていないのです(=東電に雇用責任が生じていない)。このことにこそ、社会全体で疑問が投げかけられるべきと考えます。

 本稿の最後に、見出しから外れることをご容赦下さい。

 フクイチからの「ALPS処理水」(注5)の希釈放出(≒投棄)は、残念ながら、3回目(11/2~19)が終了しました。放出された水量・放射能量の累計は、別表の通りです(東電公表の資料に基づく)。


 私は放出には反対ですが、事実は事実として、今後も追っていきます。

 注1/ALPS(多核種除去設備)には、既設・増設・高性能の3種類が有る。既設・増設の元請けは東芝。高性能は日立。

 注2/

https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/2h/rf_20231116_2.pdf  (東電のリリース)

 注3/

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/news/energy/2023/11/news-20231116-01/20231116_ess_fukushima.pdf  (東芝のリリース) 

 注4/

 注5/ALPSで一度でも放射性核種の濃度低減処理を行った放射性液体廃棄物。当連載では簡略化の為「処理水」と記載。



春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ

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