衆参2補選で見えた岸田首相の不人気|横田一の政界ウォッチ23
自民党が1勝1敗で議席維持ができなかった長崎4区補選と参院徳島高知補選の「衆参2補選(10月22日投開票)」で、岸田文雄首相の不人気ぶりを象徴する場面に遭遇した。秘書暴行事件を起こした高野光二郎参院議員(自民党)の辞職に伴う徳島高知選挙区は、当選した元立憲民主党衆院議員の広田一氏が自民新人の西内健元県議(公明推薦)に告示前から先行。そこで岸田首相はラストサタデーの10月14日に徳島駅近くで公明党の山口那津男代表と街宣を行い、自公の関係修復をアピールして逆転勝利を狙った。しかしマイクを握った途端、「増税メガネ!」というヤジが聴衆の男性から飛んだのだ。
防衛費大幅増額などで増税必至と見られていることからついた異名でSNS上で急速に拡散、そんな国民の怒りを男性はぶつけたのだ。
すぐ隣脇の報道エリアにいた私は街宣後、聴衆とのグータッチを終えた岸田首相に向かって「『増税メガネ』という声が出ていていた。増税するのか。ガソリン減税、やらないのか。補選が終わったら増税するのか」と大声を張り上げたが、岸田首相は視線を向けることもなく車に乗り込んで走り去った。囲み取材も設定されず、ヤジの受け止めを語ることなく、選挙区を後にしたのだ。
対照的に人気抜群だったのが、同日に徳島駅前で広田氏の応援演説をした泉房穂・前明石市長だ。
「今回の補選は与野党対決ではなく、これ以上の国民負担を許すのかが争点や。徳島高知の県民だけではなく、全国の国民の生活がかかっている。与党が勝てば岸田さんは国民負担増をしてくる。国民生活を守るのかどうかの戦いなんや!」
演説中は何度も拍手が沸き起こり、街宣後は握手を求める聴衆が列をなし、岸田首相と違って囲み取材にも応じ、泉前市長は補選の意味をこう説明した。
「与野党対決は一面にすぎなくて、これ以上の国民負担を続け、増税に行くかどうか。『国民負担増か否か』が争点。今回、(広田氏が)勝ったら、総理も立ち止まると思う」
一方の長崎4区補選では、金子家三代目の世襲候補・金子容三氏(自民公認・公明推薦)が前立憲民主党衆院議員の末次精一氏(社民推薦)に競り勝ったが、「法律違反をしてでも勝つ」という“無法選挙”が横行。15日に大票田の佐世保市で応援演説をした木原稔防衛大臣の自衛隊政治利用発言のことだ。まず「佐世保は自衛官やその家族が誇りを持って過ごしている街」と切り出し、岸田政権が安保三文書改訂で防衛費の倍増可能と紹介、こう続けた。
「倍増で防衛装備品なども買うが、自衛官の処遇改善であったり、駐屯地の古い施設はもう一度整備をし直すといった様々な福利厚生を含めて処遇の改善をしていく。だが、そういう防衛予算にも野党は反対。IRにも反対。私はそういう方に佐世保の代表になってほしくない」、「金子さんを応援することが自衛隊ならびにご家族に対し、その苦労に報いることになるし、佐世保の発展にもつながると確信をしている」。
翌16日に木原氏は「誤解を生む」として発言を撤回したが、自衛隊の政治利用や大臣の地位利用を禁ずる公選法違反は明らかだ。選挙区内の有権者である自衛隊員やその家族に対して“人参”(駐屯地の施設再整備など利益誘導)をぶら下げる一方、その予算増額に尽力する自公の支援候補への応援を呼びかけたからだ。自民党お得意の土建選挙、「地元の建設業者が儲かる公共事業予算増に汗をかく自民党への投票呼び掛け」と重なり合うのだ。
そんな違法選挙をしないと勝てないほど岸田政権は不人気で追い込まれているともいえる。物価高対策二の次で軍拡や増税に邁進する自公政権への拒絶反応がはっきりと出たのが今回の衆参補選であったのだ。
よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。
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