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脱水したスラリーの固化処理開始は2030年代|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊻

 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)で運転されているALPS(多核種除去設備)から生じるスラリー(注1)については、何度か取り上げてきました(注2)。

 紙幅の関係で、スラリーが発生する背景と、スラリーの保管容器(HIC/ヒック)の詳述は避けます(ポンチ絵は、連載34回に掲載したものを修正)。

 フクイチでの汚染水処理は「ALPSを通して、おしまい」ではなく、寧ろ、これは入口に過ぎません。

 今のところ、ALPSスラリーの含有核種はストロンチウム90(Sr90/半減期29年)が支配的であるとされています。HICによって放射能量は異なりますが、Sr90が最大で1立方㌢㍍当たり数万~数百万ベクレルで、1立方㍍に換算すると数百億~兆ベクレルです(注3/保管されているHICの内、試料を採取したのは29基・33試料。内、20試料の分析結果に基づく)。

 ALPSスラリーは含水率が高く、フクイチ構内で保管されている放射性廃棄物の中では、漏洩時の潜在的リスクがずば抜けて高いものです。

 保管容器のHICも、放射線脆化の関係で耐用年数は20年程度とされており、現状での保管をいつまでも続けられません。

 これらのリスクに対処する為、東電は、ALPSスラリーを脱水し、安定化させようとしています。ですが、別掲の「まとめ」のように、当初は2021年度であった開始予定が3度も遅延しており、現状では26年度開始目標(実質的には、27年3月頃)とされています。

 更に問題なのが、脱水後のスラリーの扱いです(「脱水後のスラリー」を、便宜上、本稿では「脱水スラリー」と呼称します)。


 最終処分を視野に入れて脱水スラリーを廃棄体化するには、固化処理が必要です(「使用済み核燃料の再処理で生じる高放射性廃液をガラス固化体にするのと同じ」と考えると分かり易いです)。東電は、セメント固化・ガラス固化など、複数の方法を検討しており、2025年度に採用する固化方法を絞り込んで、具体的な工程表を作成するとしています(「まとめ」参照)。


 脱水スラリーの固化処理については、2023年12月4日の原子力規制委員会の技術会合で説明されました。この際に東電が提出した資料には、「…固化開始まで10年程度の時間を要するものと予想され…ALPSスラリー固化が未経験であることを踏まえれば、更に時間を要する可能性も否定できない」と記載されています(注4)。

 東電の説明通りに2035年度前後に脱水スラリーの固化処理が開始されたとしても、その時点で発災から20年以上が経過しています。

 固化処理設備の稼働率がどの程度見込めるのかも不明ですし、ALPSによる汚染水処理が終えられる見通しは立っていないのですから、固化処理すべき脱水スラリーの総量も確定できません。

 脱水スラリーの固化処理や、固化スラリーの構外搬出(搬出できるかどうかも分かりませんが)の完了はいつになるのでしょうか?

 政府・東電は「(フクイチの)廃炉に30~40年」と説明していますが、東電自らの説明で、「30年(2041年度頃)」では終わらないであろうという見通しが示されました(脱水スラリーの固化処理が2~3年早く開始されたとしても、五十歩百歩でしょう)。

 政府・東電が言葉を尽くしても、建前と実態の乖離は隠せなくなりつつあります。政府・東電は少なくとも「30年~」の看板は下ろすべきでしょう。

 一世代を30年間とすると、フクイチ核災害の収束・後始末が世代を跨ぐことが、ほぼ確実です。

 このままでは、核の大惨事を起こした(或いは防げなかった)世代が、未知の放射性廃棄物の処分を含む後始末を次世代(場合によっては次々世代にも)へ一方的に引き継いで「逃げ切る」ことになります。これは「倫理の大惨事」です。

 フクイチの収束作業や、それに伴って生じる放射性廃棄物の処理・処分に関して、次世代・次々世代の意見の反映を義務とする仕組みの構築が、真剣に考えられるべきではないでしょうか。

 注1/ALPSで汚染水の放射性核種を除去する過程で生じる水処理二次廃棄物で、放射性核種が高濃度に圧縮されている。泥状だが、保管の間に上澄みの水と沈殿物に分離している。スラリーは「slurry」。

 注2/連載34回(2023年1月)・40回(同7月)・42回(同9月)

 注3/

https://www.nra.go.jp/data/000461457.pdf

 注4/

https://www.nra.go.jp/data/000461456.pdf


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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