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「ALPS処理水」の希釈投棄に反対する意見を送信|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊶

 東京電力・福島第一原子力発電所(「フクイチ」と略)では、所謂「ALPS処理水」の希釈放出の準備が大詰めを迎えています(注1)。

 施設に関する一義的責任は東京電力に有りますが、フクイチ核災害に最高且つ最終的な責任を負っているのは、原子力災害対策本部です(注2)。

 私は、7月20日0時過ぎに、首相官邸のWebサイトのフォーム(注3)から、岸田文雄内閣総理大臣兼原災本部長宛てに意見を送りました(フォームが2000文字限定なので、2部に分けて送信)。今回の記事は、その表題とほぼ全文(個人情報は除く)です。
 
 ===意見送信、ここから===

 表題:福島第一原発の「ALPS処理水」の希釈投棄には反対です

 内閣総理大臣兼原子力災害対策本部長 岸田文雄様

 表題の件に関し、国民(主権者)の一人として意見をお送り致します。

 2021年4月の「第5回 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」で「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(以下、「基本方針」)が決定されて以来、政府・東京電力は一体となって、所謂「ALPS処理水」(以下、「処理水」)を海洋へ希釈放出(投棄)すべく、準備を進めていると承知しています。

 私は、如何なる形であれ、「処理水」の環境中への放出には反対です。

 この「処理水」は、福島第一原発構内に貯留・滞留している放射性液体廃棄物の中では相対的に低濃度ですが、放射性廃棄物であることに変わりはありません。しかも、これらの放射性廃棄物は、施設の管理に失敗した結果としての核災害で生じたものであり、通常の核施設の運転で生じたものではありません。

 又、貯留されている「処理水」の含有核種や核種毎の放射能量、生物的汚染、化学的汚染の全容は把握されていません。

 核発電(原発)を推進してきた政府と、施設の運転で利益を得てきた事業者(東電)が、「核災害を起こしたことで生じた、全容が把握されていない放射性廃棄物」を、「核施設の通常運転で生じた、内容が把握されている放射性廃棄物」と同列に扱い、意図的且つ大量に環境中へ放出して処分するのは、自らの責任を棚上げしようとする「核のモラルハザード(倫理欠如)」です。

 「処理水」の希釈放出には、福島県内外の国民・漁業関係者・消費者団体・日弁連等、国内だけでなく、外国の政府・市民・非政府組織等からも反対・懸念の声が上がっています。岸田総理は「聞く力」を持っておられるようですから、これらの意見表明や声は届いていることと思います(仮に、万一、届いていないとしたら、政府の最高責任者が国の内外の意見や情報に疎いまま判断を下していることになり、最高責任者としては適確性が疑われます)。

 「処理水」の海洋放出を強行すれば、世界史的な「核のモラルハザード」の前例となり、日本国の歴史やブランド価値(国としての知名度や名誉だけではなく、一次産品・観光の評価など、幅広い価値を指します)が著しく毀損されかねません。計測を擦り抜ける核種や汚染物が流出した際の環境への影響も未知数です。

 日本国の歴史やブランドが毀損されたり、環境への影響が顕在化した場合、誰がどのように責任を取るのですか。

 このブランド価値の毀損は「風評被害」ではありません。

 「基本方針」では「風評影響への対応」が掲げられていますが、ここで「風評」とされているものは「核災害による市場構造の変化、又はブランド価値の毀損」です。「核災害」が起きなければ生じなかった「変化・毀損」なのですから、「核災害による被害」です。核発電の利活用を推進し、規制に責任を負ってきた政府が「核災害による被害」を「風評影響」と言い換えるべきではありません。このような言い換えも、政府の責任を棚上げしようとする「核のモラルハザード」ではありませんか。

 更に看過できないのが、「基本方針」では「風評被害」(=ブランド価値の毀損や市場構造の変化)が生じることを前提としていることです。岸田総理は行政の長であり、国会議員です。「国民の生活や生業に被害が生じること」を前提とした行政が有り得るのですか? 又、国会議員は全国民の代表です(憲法第43条)。繰り返しですが「全国民」です。岸田総理は全国民の声を聞く義務が有ります。特定の省庁や事業者の意見や都合に偏った意思決定・政策決定は許されません。

 幸いにも、現場の努力で、希釈放出の方針を撤回し、「処理水」の新たな長期保管管理計画を策定する時間は確保されています。2023年7月13日現在、「処理水」はタンク容量135・9万㌧に対して132・7万㌧の貯留量で、3・2万㌧分の空き容量が有ります。直近1年間(2022年6月末~23年6月末)の処理水の増加量は月間3000㌧ですから、単純計算で1年程度の余裕があり、満杯時期が切迫しているものではありません。

 利用計画が未画定であるフランジタンク解体跡地のフル活用・隣接する中間貯蔵施設用地の活用など、原子力災害対策本部長の権限で出来ることは多くある筈ですし、やらなければいけません。法律に基づいて認められた権限は、国の未来と人を守ることを目的に行使して下さい。

 以上を踏まえ、核災害由来の放射性液体廃棄物である「ALPS処理水」の扱いに関し、内閣総理大臣兼原子力災害対策本部長として、以下の措置を取るように、この国の主権者の一人として強く要望します。

 1、2021年4月の「第5回 閣僚等会議」の決定を速やかに取り消すこと。

 2、原子力災害対策本部長として、東京電力HDに「処理水」の環境中への放出禁止と陸上保管を命じること。

 3、東京電力が、敷地内のタンク建設に必要なリソース(予算・資機材)を確保できない場合は、国費を投じてでも支援すること。

 4、貯留タンクや関連設備を設置する可能性を踏まえて、福島第一原発の隣接地の買収・借り上げの交渉を早急に開始すること。その場合は岸田総理兼本部長自身が何度でも現地に赴き、関係者との直接対話を厭わないこと。

 5、東京電力への支援や用地確保等に関して国費を投入する際は、それを理由に医療・教育・社会福祉の予算を減額しないこと。

 尚、この意見は私個人のものであり、他の如何なる個人・組織とも関係のない事をお断りしておきます。

 ご多忙のところ、お邪魔致しました。宜しくご査収下さい。

 ===意見、ここまで===

 官邸から返信があれば、次号以降でお知らせします。

 注1 7月7日に、希釈放出設備に関する原子力規制庁の使用前検査終了証が東電に交付。

 注2 原子力災害対策特別措置法に基づき、2011年3月11日に設置。本部長は内閣総理大臣。

 注3 ご意見募集(首相官邸に対するご意見・ご感想)


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