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岸田政権の命運を左右する衆参5補選|横田一の政界ウォッチ⑰

 参院大分補選を含む「衆参5補選(投開票4月23日)」は、防衛費倍増の岸田首相イエスかノーかの政権審判選挙の様相を呈していた。当初は内閣支持率が上向いていたことから「自民全勝もある」という楽観論もあったが、世論調査で山口4区を除く4選挙区(参院大分・山口2区・和歌山1区・千葉5区)で与野党伯仲の結果が出ると、「負け越しで岸田降ろしが始まる」という正反対の見方が広まったのだ。

 補選全勝の勢いに乗って早期解散、長期政権を確実にしようと狙っていた岸田首相は一転、広島サミット後の花道辞任の瀬戸際に追い込まれた形。この危機的状況を打開すべく首相自身が補選のテコ入れに動いた。4月15日には和歌山と千葉、16日にも大分入りして自民公認候補の応援演説。その初日に起きたのが爆発事件であったのだが、その後の街宣を予定通りに行うことで追い風に利用しようとしたのだ。

 翌16日に大分補選の自民公認の白坂亜紀候補(公明推薦)の応援で現地入りをした岸田首相は、厳戒体制の下、別府市と佐伯市と大分市で街宣。ロシアのウクライナ侵攻に触れながら「防衛力の抜本強化を行わないといけない」「時代は大きな転換点にさしかかっている。どの政党に未来を託すべきか、判断していただく選挙だ」と訴えたのだ。

 前座の弁士が「テロに屈せずに毅然と総理は大分に来た」と称賛すると、岸田首相も「戦後初めて戦地(ウクライナ)に足を運んだ」と自画自賛。その上で、安全保障政策を進めるためには補選勝利が必要と強調、白坂候補への支持を訴えた。

 これに対して立民公認の吉田忠智・前参院議員(共産・社民支持、国民支援)の応援に駆け付けたのは、被災地(宮城5区)選出の安住淳・国対委員長。「来週から国会で防衛増税の本格論戦が始まる。国民の負担を強いてまで43兆円の防衛費はない」と切り出し、全国民が25年間も負担する復興特別所得税さえ防衛費に回す岸田政権を厳しく批判したのだ。

 「岸田総理は『復興のお金はいらないから防衛費に変える』という。誰が了解しているのか。何で、これ(復興特別所得税)で戦車やミサイルを買うのか。法律も変えないで選挙もやらないで許していたら財政民主主義はなくなる。そこまでして防衛費を増やすのなら、総理は堂々と防衛増税を訴えて選挙をやればいい。それをやらずに復興特別所得税を付け替える姑息なことをやったら大変なことになる。自民党にお灸をすえることは絶対に大事だ」

 なお復興特別所得税は、民主党政権時代に安住財務大臣(当時)が創設。国民と被災者との“絆”から誕生した財源を岸田政権が勝手に転用することに激怒、その暴走を補選勝利で止めようと訴えたのだ。

 これに「大分から政治を変えよう」がキャッチフレーズの吉田氏も呼応。「岸田政権の政治姿勢を問う」として防衛費倍増に加えて、実質賃金低下や物価高を招いたアベノミクスなども批判。告示日に大分入りした泉健太代表もこう訴えていた。

 「新年度予算で防衛費は26%アップの6・8兆円。一方で少子化対策の予算は2・6%しか増えず、農業予算はマイナス0・4%。こんな政治を変えなければいけない」「安全保障ばかりにお金を回して国民の生活を後回しにする。まず優先させるべきは皆様の生活を守ることだ」「(第二次安倍政権誕生後の)失われた10年間で県民生活が衰退し、人口が減り、若者が地元からいなくなってしまった。その政治を一緒に変えようではないか」。

 今回の補選は地域の代表を選ぶ選挙であると同時に、軍拡に邁進する岸田政権の審判を問う意味も併せ持っていた。長期政権か、それとも早期退陣となるのか。岸田政権の命運を左右する選挙でもあったのだ。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。



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