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「総選挙前哨戦」の都議補選総括|横田一の政界ウォッチ⑲

 「次期総選挙の前哨戦」と報じられた2議席を争う「大田区都議補選」(6月4日に投開票)で、立憲民主党と共産党が支援した無所属の森愛候補(元都民ファ都議)がトップ当選、自民公認の鈴木章浩候補が2位に甘んじる一方、統一地方選の余勢を駆って臨んだ維新の細田純代候補は3位で落選、小池百合子都知事が応援に駆け付けて国民民主党も支援した都民ファの奥本有里候補も4位に沈んだ。

 「有力4候補の誰が当選しても不思議ではない」と囁かれる中で、前評判と食い違う結果になったともいえる。統一地方選で地方議員1・5倍以上の目標を達成、奈良県知事選や和歌山1区補選でも自民に競り勝った維新だが、馬場伸幸代表らの応援演説もむなしく、2位にさえ滑り込むことが出来なかったのだ。

 統一地方選の余勢を駆って全小選挙区に候補者を立てると宣言、立民から野党第一党を奪取すると意気込んだ途端、その前哨戦で敗北し出鼻を挫かれた格好だ。

 失速した維新とは対照的に、立民は共産党と共に支援した無所属候補がトップ当選したことで反転攻勢の足がかりをつかむことができた。

 泉健太代表は次期総選挙での共産党との選挙協力(連携)を否定しているが、大田区都議補選では市民連合おおたの会を介した“ブリッジ共闘”で勝利を勝ち取った。市民連合が森候補と政策協定を結び、同じ政策協定を立民や共産などとも締結する選挙協力によって、自民と維新と都民ファの候補に競り勝ったのだ。

 立民の好材料は他にもある。子ども予算を倍以上にして10年連続人口増の実績を残した泉房穂・前明石市長と連携を強めていることだ。6月7日には長妻昭政調会長主催の時局講演会で泉前市長が講演。市長時代に公共事業の後倒しなどの歳出改革によって、市民負担を増やすことなく子ども予算を125億円から297億円の2・38倍にした。医療費無料など5つの無料化を実現すると共に、子育て関連施設(遊び場や授乳施設など)を駅前につくるなどの政策も進めた結果、子どもに優しい街として人気が上昇、10年連続で人口増が続き、商店街も賑わいを取り戻し、税収アップで明石市の財政健全化も進んだのだ。

 3期12年の任期を終えた泉前市長だが、「今の政治は変えないといけないし、変えることはできる」と強調。「私としては明石でやることは自分なりにやった。これを全国に広げていきたい。明石で出来たことは他の街でも出来る。まして国で出来ないわけがない」とも訴えていたのだ。

 明石での成功事例を他の自治体や国政にも広げることを目標とする泉前市長は6月14日の立民ヒアリングにも招かれ、岸田文雄政権(首相)の少子化対策を「100点満点で10点」「牛丼屋にたとえれば、上手くない、安いかどうか分からない、速くない」と厳しく批判。すると、これを聞いた泉健太代表は「是非、一緒にやりましょう。これはラブコールです」と実質的な出馬要請をしたのだ。

 すでに総理待望論が出始めていた泉前市長だが、次期総選挙で「明石方式の国政反映」を旗印に立民から出馬、野党陣営の共通政策にもすることで自公を過半数割れに追い込めば、夢物語ではなくなるのだ。

 泉前市長は、見かけ倒しの維新政治を一刀両断にする“宝刀”にもなる。維新も明石市政と同じように子ども政策で評価されることもあるが、その実態は雲泥の差がある。10年連続人口増の明石市とは対照的に大阪府は人口減なのだ。10増10減で東京や愛知などは定数増なのに、大阪が現状維持なのはこのためで、魅力なき地域になっていた。

 「身を切る改革」と岸田政権少子化対策の空虚さを浮き彫りにすることができる泉前市長が、野党結集のキーマンになるのかが注目される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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