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岸田政権に「ノー」を突きつけるヤシノミ作戦|横田一の政界ウォッチ⑮

 「同性婚反対は自民党政権の首相秘書官の条件なのか」という疑問が浮かんで来たのは、荒井勝喜首相秘書官が更迭された2月4日。1日の衆院予算委で同性婚の法制化について聞かれた岸田文雄首相が「家族観や価値観、社会が大きく変わってしまう課題」と否定的な答弁をしたことから、その真意を荒井秘書官が問われ、「見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」と述べた。経過を振り返れば、首相の本音を荒井氏が代弁したとしか考えられないのだ。

 しかし岸田首相は「政権の方針とは相いれない発言で言語道断」と批判、更迭を即断したが、岸田首相は発端となった自らの否定的答弁を謝罪も撤回もせず、法制化賛成に方針変更することはなかった。その代わりに打ち出したのがLGBT理解増進法案だ。2021年に与野党の全会一致で成立を目指そうとしたが、自民党内で異論が噴出して未提出のままだった。そんな“店ざらし法案”を急きょ持ち出したのだ。2月17日には女性活躍担当の首相補佐官森雅子参院議員(福島選挙区)にLGBT理解増進担当も兼務させることを発表したが、これも世論沈静化を狙った目くらましといえる。

 立民の泉健太代表は2月10日の会見で「(理解増進法案は)本当にもう入口の入口だ。入口に入って終わりということは絶対にあり得ない」と岸田政権を牽制、「出口(同性婚の法制化)を目指すべき」と強調した。

 ちなみに同性婚反対を声高に訴えたのは安倍晋三元首相秘書官だった井上義行参院議員(安倍派)も同じだった。自民党全国比例で再選を果たした井上氏は昨年7月6日、旧統一教会の支援集会で「井上先生は食口(信者)になりました」と教団幹部に紹介された後、「私は信念を持って同性婚反対を言っていますから!」と訴えていたのだ。

 安倍政権と岸田政権の二人の首相秘書官がそろって同性婚反対だったのは、ズブズブの関係を続けてきた自民党と旧統一教会が古い家族観を共有し続けてきたために違いない。 こうして秘書官更迭を機に、同性婚法制化や選択的夫婦別姓導入に反対する古い家族観を共有する自民党と旧統一教会との関係が再び注目を集めることになったのだ。

 一方、古き家族観に囚われる自民党に対抗する動きも始まっていた。サイボウズ㈱の青野慶久社長が2021年の総選挙で仕掛けた落選運動「ヤシノミ作戦」のことだ。選択的夫婦別姓や同性婚を進めない政治家をリストアップ、ヤシの実のように落とすことを呼びかけ、両制度の早期実現を目指す活動だ。

 12月10日の第4回「武蔵野政治塾」(政治に復活の息を吹き込むことを目指す政治塾)で青野社長はポールトゥウィンホールディングス㈱の橘民義会長と対談。橘氏が「この人を落とそうという発想が自由」と評価、青野氏はこう説明した。

 「いま世論調査をしたら7〜8割が選択的夫婦別姓に賛成です。なぜ政治家は変わらないのか。自民党の一部の国会議員が強硬に反対しているので、この問題が進められないってことがわかったのです」「今、旧統一教会の応援で当選して頑なになっている人がいるので、国民として落としていかないといけない」。

 このヤシノミ作戦が統一地方選で広がる可能性は十分にある。“旧統一教会応援議員”は、国政選挙で実働部隊となる地方議員にもいる。そんな地方議員を落選させれば、同性婚法制化や選択的夫婦別姓導入に反対する国会議員を減らすことにつながる。しかもこうした議員(安倍派に多い)は、安保三文書や原発回帰にも賛成する傾向がある。軍拡反対や脱原発を訴える人たちにも広がる要素を併せ持っているのだ。岸田政権に「ノー」を突きつける形となるヤシノミ作戦がどこまで広がるのかが注目される。


よこた・はじめ
 フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。



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