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人脈に支えられながら未知に挑む海外貿易商社(前編)

 河原町出身の坂口氏が経営するサラマック貿易株式会社。たった数人の会社ながら、産油国の財閥など自分たちよりはるかに大規模な相手と取引をしている。大きな挑戦を繰り返してきた小さな会社の軌跡を紹介する。


サラマック貿易株式会社  代表取締役 坂口勇
聞き手:
北村真吾/中小企業診断士

取材:2018年9月26日 掲載:旬刊政経レポート2018年10月15日号)


御社の事業概要を教えてください。

 当社は船舶・機械・産業機器などを主に輸出している商社ですが、近年は日本の革新的技術の海外移転に注力しています。自社で研究開発をしているわけではなく、日本の多様な中小企業から技術提案を受けています。それを海外、特に東南アジアで実用化しています。
 日本の中小企業の技術力は世界的に見ても高いのですが、海外への情報発信がまだまだ弱い。国内には多くの立派な技術が埋もれていると感じます。当社はこれらの技術を英語で情報発信し、ビジネスにしています。
 商社といえば、他人が作ったものを右から左に流すものと多くの人が思うかもしれません。しかし当社は違います。出資もする。売った後のフォローもする。技術者の派遣もする。ここまでビジネスに深く関わる中小商社は少ないでしょう。
 そんなスタイルで会社経営を長年やっているうちに、当社を通じて技術を売り込みたい日本企業が増えてきました。ありがたいことです。


 具体的には、今までどのような仕事をしましたか。

 私が海外貿易会社を経営するのは当社、サラマック貿易が2社目です。1977年に1社目の海外貿易会社を設立し経営していました。
 この会社の設立3年目の時に、サウジアラビアに世界最大の海上ホテルを納品しました。現地にサウジアラムコという会社があります。原油の保有埋蔵量、生産量、輸出量が全て世界最大の会社です。日本も石油の約30%をこの会社から買っています。
 当時、サウジアラムコ社が陸地の天然ガスを回収するプロジェクトを計画しました。従事する労働者は7000人以上。彼らが長期的に寝泊まりする場所が必要になったのです。砂漠にキャンプを作る方法もあったのですが、それには時間がかかりすぎる。さらにキャンプを作るための労働者も必要になる。そこで、海上に宿泊施設を作ろうということになり、私たちがその「海上ホテル」の契約をして、日本で建造しました。
 1500人収容が2隻と750人収容が2隻。合計4500人を収容する海上ホテル4隻です。建造費用は70億円。完成は4ヶ月の超短納期。70日かかるサウジアラビアへの輸送中に台風に合い経由地のシンガポールで急いで修理したのも今ではいい思い出です。
 このように経営は順調だったのですが、私の経営パートナーの逝去後、株主と意見が合わず設立6年目に私は会社を去ることになります。海外取引の慣習や現場事情を知らない日本の株主は、私がいくら説明しても理解できない事が多かったのでしょう。結局、株主を入れずオーナー社長として自ら海外貿易会社を設立する事にしました。1980年。私が41歳の時です。


2社目のサラマック貿易ではどのような仕事をしましたか。

 設立当初はお金も仕事もゼロ。あったのは人間関係だけです。前職から培ってきた私の人脈で仕事の幅を広げていきました。
 例えばこういう具合です。前の会社で納品した海上ホテルを管理していたのは、アルザミールという会社でした。従業員の日々の食事や生活のお世話、設備のメンテナンスなど、まさにホテルの経営に関する管理業務をこの会社がしていました。海上ホテルの建造をきっかけに同社と私の付き合いは続いていました。同社は次に、海底から原油を採掘するリグに、機材や食料を運ぶための船(サプライボート)が必要になり。これを新たに立ち上げたサラマック貿易で合計6隻受注しました。会社は変わっても私を信頼してくれる顧客とはありがたいものです。


坂口社長は船に詳しいのですか。

 いや、まったくです。船の写真を見てもどっちが前か分からないぐらいでした。その代わり社内に船の専門家がいました。日立造船出身者で、取締役として当社の設立に携わってくれた人です。アルザミール社の要望や仕様を聞き取りながら、日本の小さな造船会社とのやり取りをしてくれました。
 建造をお願いした中小造船所は、実はサプライボートを作ったことがありませんでした。でも仕様などを説明すればきちんと造ってくれました。当初の船は建造後36年たちますがこのサプライボートは今でも現役で動いています。
 造船だけではなく、日本のものづくり技術は素晴らしい。だから私は自信を持って海外企業と交渉できるし受注した後は顧客フォローに集中できるのです。


御社は大手商社と競合関係になることもあるでしょう。彼らとの違いは何でしょうか。

 意思決定の早さです。
 例えば、前出の海上ホテルの話です。このプロジェクトでは、建造費用を安くすることより早く納品することが重要でした。海上ホテルの建造にあたり、実は三菱重工にも見積依頼しましたが、組織が大きく見積を出すのに1ヶ月以上かかるとのこと。それでは遅いと、オーナー経営で見積が早く、短納期を即答してくれた造船所と契約する決定を私たちがすぐにしました。
 当社を設立してからもうすぐ40年。大手に対抗するために私は、素早く、自由に行動するようにしてきました。利害関係者に臆することなく、自らの判断で意思決定できることは小さい会社ならではの武器なのです。


サラマック2

(アルザミール社での坂口氏とザミール・アルザミール会長との記念写真)

後編では経営者としての考え方と、県内の若者へ向けたメッセージをお聞きします。


(後編につづく)


【企業情報】
サラマック貿易株式会社
代表取締役 坂口勇

事業内容:海外貿易商社
所在地:大阪市西区江戸堀1-22-38
従業員数:4人
資本金:1000万円

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