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ハンドリングのスキルアップに必要な7つの基本知識:その4️⃣【関節運動や骨の動きはベクトルで整理すべし】

関節への治療を行うとき、「運動学」が一般的に適応されていると思います。運動学は関節の動きを第3者に伝えるという意味ではとても有効です。

しかし、関節機能改善させようとした場合には、運動学を利用することが一部危険になる場合があります。なぜなら、運動学は人間が観察しやすい条件のもとで実験を行ってきたものをまとめた結果だからです。なので、運動学が真理のように考えることは危険なんです。

今回は、臨床的に関節を扱う上で必要な、ベクトルで関節や骨の動きを整理する方法を解説します。


♦︎ベクトルと物体の運動

ベクトルとは、矢印のことで、「力の大きさ」と「力の方向」の2つの意味を表現しています。

「力」というのは何かというと、加速度が働いている状態のことです。力がかかっているという状態は加速していることと言い換えることができるんですね。これを人体で置き換えてる必要がありますが、その前に前提知識が必要なので、その解説から始めます。

物体の運動は「移動+回転」で表現する

骨のいう物体は、構造的には関節や靱帯で連結していますがハンドリングで扱っていく時にはそれぞれ独立しているイメージを持った方がいいと考えています。

骨のという物体が動く時に重要なイメージとして、「移動」と「回転」があります。👇のそのイメージ画像を載せます。

物体が移動する様子
物体が回転する様子

移動とは、物体の質量中心点の位置が変わることです。この時、物体の両端は同じ方向に加速。なので、矢印は同じ方向を向いています。一方で、回転運動は物体の質量中心点を支点した回転です。なので、物体の両端は逆の方向で加速します。

関節運動は「移動」と「回転」が同時に起こること

先ほどの画像では移動と回転を別々にみていました。関節運動で考えた場合、安定した関節というのは移動と回転が同時に発生します。同時に動いた時にイメージを👇の載せます。

棒の左側は力が釣り合っている。右側は力がより大きくなる

移動と回転が同時に起こると、画像上での左側では異なる方向の矢印が同時に発生することになります。すると、2つの矢印はそれぞれ打ち消しいベクトルは消失します(これを釣り合いといいます)。右側では移動と回転で発生する矢印が同じ方向を示すので、動きはより強調されます。

これらを合算すると、物体の一方が動かず、もう一方が動くという関節運動に近い形になります。

♦︎凹凸の法則を考えるときの注意点

関節可動域を考える上で、とても一般的に使われているのが凹凸の法則です。副運動として滑りと転がりが定義されており、関節の構造により転がりと滑りが同方向なのか逆方向なのかが問われます。

ここで、先ほどお伝えしたベクトルの釣り合いと矛盾することにお気づきでしょう。私が考えているベクトルでの解釈は釣り合いなので、副運動は考慮に入れていません。

ただ、ここで副運動が間違っているといいたいわけではないんです。

関節は加速度が発生するとかなり嫌がり、安定した運動を好みます。移動と回転のベクトルが釣り合いを起こすことが安定した形ですが、セラピストがハンドリングする場合は、ベクトルの安定を意識する必要があります。

凹凸の法則は、関節の構造的に勝手にそのように動くものであり、他動的に操作するものではありません。

安静時に転がりや滑りが起こるスペースや柔軟性があることを確認するは重要ですが、ハンドリングの際はベクトルの安定を意識すると勝手に関節は凹凸の法則のような動きを呈するということです。

♦︎ハンドリングに力学を応用する方法

これまでのことを組み合わせると、人間であっても力学を基盤として動いており、その動きを人間ができる観察方法で示したのが運動学です。これはマクロ的に全体像で見た考え方ですが、セラピストは基本的に患者さんとの1対1なので、かなりミクロ的に見る必要性があり、それが力学的な考え方なんです。

では、実際の臨床でハンドリングに力学を使う一つの事例を膝の屈曲操作を使って解説します。

膝の状態が安定している場合の操作

特にトラブルのない膝は動きとして安定しています。その膝を屈曲させようとすると👇の画像のような動きになります。

脛骨が移動および回転で動くイメージ

大腿骨に対して脛骨を屈曲させようとした場合、脛骨の「移動」と「回転」が同時に起こると、脛骨近位側のベクトルが釣り合いを起こし、力学的には安定しますが反対側は動くを作ります。大腿骨に対して膝を屈曲させる場合は、このイメージでハンドリングする必要があるんです。

脛骨が前方偏位している場合の操作

一方で、膝にトラブルがある場合、仮に脛骨が大腿骨に対して前方偏位しているとしましょう。👇の画像のイメージです。

初期設定として脛骨の前方偏位が発生している

この状態で近位側のベクトルの釣り合いを意識してハンドリングすると、膝の周囲の緊張が起こり、なかなかうまく屈曲できないでしょう。なぜなら、すで前方にズレる力があるからです。

そんな時には意図的にベクトルをコントロールします。次の画像がそのイメージです。

「回転」の操作で発生する脛骨近位部の前方へのベクトルを作らないことで、元々あるベクトルと「移動」で発生するベクトルで釣り合いを作る

初めから前方偏位の力があるのであれば、セラピストはハンドリングで移動によるベクトルだけを発生させます。すると、元々の前方移動のベクトルと後方移動のベクトルで釣り合いを起こし、関節は安定します。

このように、基本的には釣り合いを意識したハンドリングを実施するのですが、状態応じて、ベクトルの引き算しながらそのハンドリングなら動きがいいのか、つまり関節が安定するのかを見極めて介入することが必要です。

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