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(浅井茂利著作集)外国人労働者問題、これからどうするのか(2)

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1667(2021年10月25日)掲載
金属労協主査 浅井茂利

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 コロナ禍で雇用情勢が悪化しているにもかかわらず、外国人労働者数は拡大を続けています。2017年11月に施行された新しい外国人技能実習制度、 2019年4月から導入された新しい在留資格「特定技能」とも、見直しの時期を迎えていますが、不法残留や受け入れ企業による労働法令違反は改善するどころか、悪化を続けており、低賃金や、母国の送出機関・伸介事業者による高額な手数料、保証金や違約金、それに伴う多額の債務といった問題も解決の兆しを見せていません。
 両制度とりわけ技能実習制度については、ILOの中核的労働基準によって禁じられている人身取引、債務労働、強制労働ではないかという国際的な厳しい指摘があります。企業は、強制労働の状態が放置されている制度を自社やバリューチェーン企業が利用していれば、法令を守っているかどうかに関わらず、利用すること自体が、人権上の大きなリスクであることを認識する必要があります。

受け入れ企業の変更の問題

 技能実習制度では、1号(1年目)、2号(2~3年目)では、原則として受け入れ企業の変更が認められておらず、倒産など事業上・経営上の都合で受け入れ企業が技能実習を行わせることが困難となった場合、人権侵害行
為を受けるなど労使間や対人関係などで問題が発生した場合のみ、転籍が可能とされています。3号(4~5年目)については、 「技能実習制度運用要領」では、「第3号技能実習については実習実施者を変更すること(転籍)が可能です」と記載されているのですが、
*出入国在留管理庁が発表している「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」では、「2号から3号への移行時は転籍可能」とされている。
*外国人技能実習機構のホームページでも、「技能実習2号から技能実習3号に進む段階となった技能実習生は、実習実施者を変えることができます」とされている。
ことからすれば、技能実習生が自らの意思で転籍できるのは、2号から3号に移行する、その一瞬のみとなっているようです。
 技能実習生を受け入れ企業に縛り付けるこうした仕組みが、悪質な人権侵害や低賃金の温床になっているのは明らかです。技能実習である以上、同じ職種である必要はありますが、受け入れ企業の変更の自由を認めることこそが、技能実習生に対する最大の保護施策であると言えるでしょう。

特定技能制度の導入に伴い、技能実習制度は抜本的な見直しを

 技能実習制度については従来より、本音と建前の乖離ということが言われていました。わが国の外国人労働者受け入れ方針は、
*専門的・技術的分野における外国人材
*一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材
を幅広く受け入れていくというもの(骨太方針2018)で、技能実習制度については、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」とされているにも関わらず、いわゆる単純作業分野の人手不足に対応するため、活用されている実態があります。
 2019年4月に、労働力の需給の調整の手段として、特定技能が導入されたわけですから、技能実習制度については建前、すなわち「我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、その間発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力する」という本来の目的をあくまでも追求する制度に衣替えすべきです。
 少なくとも団体監理型については廃止すべきだと思いますが、仮に存続するとしても、
*1号、2号も含めて、同一職種における転籍を自由化し、外国人技能実習機構および各監理団体は、その支援を積極的に行う。
*3号に移行する際に義務づけられているいったん帰国の期間を1年以上に延長し、その間、当該職種に従事していることを要件とする。
*送出機関に支払う費用は、すべて日本政府もしくは受け入れ企業が負担し、技能実習生が、金額の多少に関わらず、手数料、保証金、違約金などを支払うことのないようにする。
ことが不可欠です。
 ちなみに、コロナ禍が発生して以降、技能実習生を含め、外国人材の解雇が相当程度発生しているものと思われます。技能実習生についても通常の労働者と同様の解雇要件が適用されているものと思われますが、通常の解雇要件が適用されるのであれば、通常の労働者と同様、実習生の意思による転籍が同一職種内で認められるべきです。自由な意思による受け入れ企業の変更を認めないのであれば、受け入れ企業に対しても、通常より厳しい解雇制限を課すのでなければ、バランスを欠いていると言わざるを得ません。
 また、受け入れ企業が事業上・経営上の都合で技能実習を行わせることが困難となった技能実習生については、受け入れ企業と監理団体が転籍先を確保することになっていますが、これが果たされていない場合には、技能実習制度を創設した政府が、最終的な責任を負っていく必要があると思います。

特定技能における「労働市場テスト」の必要性

 特定技能は、「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組み」です。こうしたことからすれば、特定技能労働者を受け入れることができる「特定産業分野」の決定に際しては、当然、「生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある」ことが立証されなくてはなりません。
 14の特定産業分野ごとに作成されている「分野別運用方針」では、
*生産性向上や国内人材確保のための取組等
 ・処遇改善
 ・生産性向上のための取組
 ・国内人材確保のための取組
*受入れの必要性(人手不足の状況を判断するための客観的指標を含む。)
が記載されることになっています。しかしながら、後者の人手不足の状況はともかく、前者については、きわめて不十分な内容に止まっています。たとえば、素形材産業分野の運用方針を見ると、処遇改善についての記載はなく、
(生産性向上のための取組)
*各企業や業界では、①生産現場の改善の徹底や、②研修・セミナー等、人材育成の継続的な取組を実施している。
*経済産業省としても、企業による設備投資やIT導入を支援する施策により、企業による生産性向上の取組を支援している。
*素形材産業分野を含む製造業の生産性は、平成24年から平成28年まで、年平均約2%向上している(推計値)。
(国内人材確保のための取組)
*各企業や業界では、 ①適正取引の推進等による適正な賃金水準の確保や、 ②女性や高齢者も働きやすい現場環境の改善等に取り組んでいる。
*経済産業省としても、①中小企業が女性、高齢者等多様な人材を活用する好事例をまとめた「人手不足ガイドライン」の普及、②賃上げに積極的な企業への税制支援、 ③下請等中小企業の取引改善に向けた取組等を行い、企業による国内人材確保の取組を促進している。
*素形材産業分野の就業者に占める女性及び60歳以上の者の比率は、平成24年には約25%だったが、平成29年には約27%に上昇している(推計値)。
という記載に止まっています。結局、全産業や製造業全体で取り組んでいる内容、経産省の政策が紹介されているだけで、素形材産業独自の取り組み内容やその結果は、何も紹介されていません。女性及び60歳以上の者の比率の上昇のみ、素形材産業の数値が紹介されていますが、これも、全産業を超える上昇ではありません。
 介護分野などの記載は少し異なりますが、製造業についてはどれも、産業独自の、あるいは他の産業を上回る「生産性向上や国内人材確保のための取組」が行われていることについて、根拠がまったく示されていないと言わざるを得ません。
 海外の事例を見ると、先進国が外国人材を受け入れる際には、「労働市場テスト」(国内人材で充足されないことの確認)が行われるのが一般的です。たとえば韓国が2004年から導入した「雇用許可制」では、総理の下に設
置された外国人労働者政策委員会が策定した「外国人労働者導入計画」において全体の受け入れ規模などが決定され、その中で産業ごとに割り当てられた人数を受け入れることになっていますが、個別企業では、内国人の求人を14日間(主要な日刊紙等に3日間以上求人を行った場合は7日間)行っても労働力を確保できなかった場合に、雇用支援センターを通じて外国人労働者の雇用許可を申請することができます。使用者が正当な理由なしに内国人の採用を2回以上拒否した場合、外国人労働者の雇用は許可されません。日本でも、
*産業として、少なくとも全産業平均以上の賃金水準であること。
*個別企業においても、ハローワークにおいて、地域における全産業平均以上の募集賃金を提示してもなお、国内人材を確保することができないこと。
を要件とする必要があると思われます。

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