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人件費と労働分配率の国際比較

2023年12月26日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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人件費の国際比較

 OECDの主な加盟国における2021年の労働時間あたり人件費(GDP統計における名目雇用者報酬)を、直近の購買力平価(2022年・・・1ドル=94.93円)でドル換算して国際比較してみると、全産業計で、日本の30.37ドルに対し、フランス52.53ドル、ドイツ51.49ドル、米国48.88ドル、イタリア40.43ドル、英国38.93ドルなどとなっており、日本は主要先進国の中で最低、韓国の30.68ドルをやや下回り、チェコの28.83ドル、スロバキアの28.30ドルを若干上回る程度の水準となっています。
(このデータは、内閣府「2022年度国民経済計算年次推計(フロー編)」の発表、およびOECD.statのデータの改訂に伴い、12月26日に再計算を行ったものです)

 なお、
*欧米諸国では賃金が高いものの、物価水準も高いのではないか。
*円安だから、日本の賃金水準が低く計算されてしまうのではないか。
との疑問があるかもしれませんが、この国際比較は、為替レートを購買力平価で換算しているため、各国とも物価水準が同じ、として計算されています。また最近の円安の為替レートで計算しているわけでもありません。(購買力平価については図表の注参照)

 日本企業の競争相手は先進国よりも新興国・途上国の企業であり、先進国との賃金比較は意味がない、との指摘がありますが、「日本企業の競争相手は先進国よりも新興国・途上国の企業」という発想こそ、まさにグローバル経済の下で、日本企業が自ら、新興国・途上国の企業との低賃金・低価格競争の渦中に飛び込んできた証拠です。日本企業だけでなく、米国の企業も、欧州の企業も、韓国の企業も、みな熾烈な国際競争を繰り広げており、そうした中で、欧米の企業は時間あたり50ドルの人件費でやっていけるのに、なぜ日本企業が30ドルに止まっているのかということを、よく考える必要があります。日本企業は、組立メーカーだけでなく、素材メーカー、部品メーカーも含め、バリューチェーン全体で「高賃金・高生産性・高利益経営」に転換していかなくてはなりません。

労働分配率の国際比較

 「カナダを除く主要先進国プラス韓国」の計7カ国について、GDP統計ベースの労働分配率(雇用者の労働時間あたり名目人件費÷就業者の労働時間あたり名目GDP)を国際比較してみると、全産業では、フランス69.0%、韓国68.1%、ドイツ66.2%、英国64.9%、イタリア63.8%、米国59.6%に対し、日本は59.3%で最低となっていますが、以下のような特徴点が見られます。
*日本は、労働時間あたり名目GDPは7カ国中6位であるが、労働時間あたり名目人件費が7カ国中の最低となっている。すなわち、日本の付加価値生産性は国際的に見て低いけれども、それ以上に人件費が低いために、労働分配率が最低となっている。
*米国の労働分配率は日本に次いで低いが、これは労働時間あたり名目GDPが他の国々に比べ高いにも関わらず、労働時間あたり人件費がドイツ、フランスよりもやや低い水準に止まっているためである。日本の労働分配率の低さとは原因が異なる。
*労働分配率の高低は産業構造の違いの影響を受けるが、製造業、非製造業それぞれについても、おおむね同様の傾向となっている。
(なお、このデータは、内閣府「2022年度国民経済計算年次推計(フロー編)」の発表、およびOECD.statのデータの改訂に伴い、12月26日に再計算を行ったものです)

 賃上げを行うためには、生産性の向上が必要です。しかしながら、生産性に比べて人件費が低く、その結果、労働分配率が低いのであれば、まずは人件費を引き上げることにより、高賃金・高生産性をめざすべきです。「鶏が先か、卵が先か」とよく言われますが、卵があるのなら、それをまず孵す必要があります。

売上高人件費比率の国際比較

 OECDの統計により、製造業における売上高人件費比率を国際比較してみても、コロナ禍前の2019年のデータで、ドイツ20.3%、フランス17.2%、ノルウェー17.0%、スウェーデン16.2%、イタリア15.2%となっているのに対し、日本は11.3%に止まっています。


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