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(浅井茂利著作集)2017年闘争にかける思い

株式会社労働開発研究会『労働と経済』
NO.1610(2017年1月25日)掲載
金属労協政策企画局長 浅井茂利

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 金属労協は2016年12月の協議委員会において、2017年春闘の闘争方針として、「3,000円以上の賃上げ」をはじめとする「2017年闘争の推進」を決定しました。
 「3,000円以上の賃上げ」は、2016年闘争の要求基準と同じではありますが、もちろん、ただ単純に昨年と同じ金額を掲げているわけではありません。
 2014年闘争以降、デフレ脱却を確実なものとし、「経済の好循環」を実現するため、3年連続で賃上げに取り組み、景気の底支えと賃金の底上げ・格差是正に一定の役割を果たしてきたものとは思いますが、一方で、日本経済はいまだ「好循環」軌道に至っていません。2017年の闘争方針は、この3年間の成果を踏まえ、一層改善すべき点を精査し、まさにゼロべースから検討した上で、継続的・安定的な賃上げに取り組むことが不可欠との観点に立って、組み立てたものです。

世界経済の変動に耐えうる強固な日本経済構築を

 イギリスのEU離脱問題、アメリカの大統領選挙結果、中東情勢の悪化、為替相場の大幅な変動など、世界は激動期を迎えており、経済活動の不確実性も、これまで以上に大きなものとなっています。
 グローバル経済の下では、世界のどの地域の変化も、ただちに他の地域に波及するため、世界経済の変動に耐えうる強固な日本経済を構築していくことが重要です。輸出がわが国経済の主要な柱であることは間違いありませんが、言うまでもなく国際情勢や為替レートに大きく左右されることは避けられませんし、設備投資も当然、その影響にさらされることになります。外需が落ち込むと内需にも影響する経済ではなく、外需が落ち込んでも個人消費を中心とする内需が支える経済構造に転換を果たし、強固な日本経済の構築を図っていかなければなりません。

すべての組合で賃上げを獲得し、すべての勤労者に賃上げを

 底堅い内需、すなわち、個人消費の安定的な拡大と、消費拡大に対応するための設備投資を大黒柱とした成長軌道を作り上げていくことが重要となっています。金属労協は、2014年闘争以降3年連続で賃上げに取り組んできましたが、消費回復は遅れていると判断せざるをえません。
 消費拡大に必要なのは、恒常的な所得の増加と生涯所得の見通しの向上です。生涯にわたって、その時々に必要な所得が得られるという前提なしに、勤労者が安心して消費支出を拡大させることはできません。
 先月号(2016年12月25日号)で触れたように、
*ベア実施の比率がいまだ低いこと。(厚生労働省の調査で4割、金属労協全体集計で6割)
*いわゆる成果主義賃金制度の下で、中高年に対し、定昇、ベアが行われない場合があること。
などの影響が大きいものと思われます。
 2017年闘争方針では、
*強固な日本経済の構築や、国民経済全体の成長成果の配分など、マクロの必要性から生じる賃上げについては、すべての組合において、すべての勤労者に対し、継続的・安定的に行っていく。
*すべての勤労者に対し、職務遂行能力の向上を反映した昇給が行われる。これを通じて、生涯において最も子育て支出のかさむ時期に、それを賄うことのできる賃金を確保する。
ことを基本とし、
*要求・獲得組合の拡大に向け、産別における取り組みをさらに強化する。
*賃上げに関しては、賃金表の書き換えなど、賃金制度上の反映を行う。賃上げ原資は、組合員の納得感の得られる公正な配分が行われるよう留意する。
といったことを掲げています。加えて、
*恒常的な長時間労働の解消や仕事と家庭の両立支援制度の拡充などを通じたワーク・ライフ・バランスの確立、労働組合による相談体制の強化などにより、出産・育児、看護・介護、病気治療によって離職に追い込まれることのない体制・環境を整備する。
*60歳以降の就労については、60歳以前の豊富な経験に基づく技術・技能を発揮できる仕事を基本とし、公的給付(特別支給の老齢厚生年金や高年齢雇用継続給付)を前提とした賃金から、労働の価値にふさわしく、かつ生活を維持することのできる賃金水準を確保する。
*社会保障制度の持続可能性確保のための税・社会保険料の引き上げによる経済へのダメージを最小限に抑えるため、雇用の安定と賃上げによって勤労者の税・社会保険料の負担能力を強化する。
などを主張しています。
 子育て世代や60歳以降の待遇改善、出産・育児、看護・介護、病気治療などへの対応強化は、その対象となる世代、直面している人々はもとより、若年世代を含めたすべての世代、すべての勤労者の安心・安定に資することは明らかです。

中小企業における人材確保と賃上げ

 旺盛な労働力需要により、国内における人手不足は顕著となっています。失業率はすでに完全雇用の水準、有効求人倍率もほぼ25年振りの改善となっています。
 こうした中で、金属産業における中小企業の現場を支える人材の確保、技術・技能の継承・育成は、困難をきわめる状況に陥っています。
 日本のものづくり産業の基盤は人材にありますが、人材確保が困難であれば、中小企業は存続することができず、国内のバリューチェーンは危機に瀕することになります。わが国の金属産業は、サプライチェーンをはじめとするバリューチェーン全体で「強み」を発揮しており、バリューチェーンの危機は、国際競争力の喪失に直結します。
 2014年闘争からの3年間の取り組みを通じて、マクロ経済や「人への投資」の観点からの賃上げの意義・役割・必要性に関しては、経営側も含め社会的に理解が深まったものと思われますが、そうした理解を、個別の中小企業における具体的な賃上げに結びつけていかなくてはなりません。かつての大手準拠ではなく、金属労協3,300を数える大手組合、中堅組合、中小組合のそれぞれが、自らJC共闘推進の主体となって賃上げに取り組み、波及効果を及ぼしあい、相乗効果を高めていくことが不可欠となっています。

新しい成長分野や第4次産業革命に対応するための「人への投資」

 金属産業では、新世代ITS(高度道路交通システム)における自動走行システム、低燃費かつ利便性の高い航空機開発、商業衛星や民間企業による宇宙開発、看護・介護支援機器・ロボット、温室効果ガスの回収・貯留技術、安全、安定的、効率的かつ地球環境問題に対応した次世代発電システム、IoTを推進するための機器やシステムなどといった新しい成長分野で、急激な技術進歩が進展しています。
 一方、インダストリー4.0(ドイツ)、インダストリアル・インターネット(アメリカ)、第4次産業革命(日本)などと呼ばれる変革が急速に進展しています。
 事業所内・事業所間の設備や従業員、サプライヤー、ロジスティック部門、販売部門、アフターサービス部門、消費者の手許にある製品などすべてをネットワークで結び、データをやり取りし、そこから得られるビッグデータをAI(人工知能)を使って分析することにより、生産の効率化、省エネルギー、製品やサービスの向上、基礎研究や技術開発、製品開発などに活用するものです。
 勤労者にとって、新しい技術、新しい仕事、新しい働き方が次々と生まれてくることは明らかですが、長期にわたる経験によって蓄積された現場の従業員の技術・技能や知恵とノウハウ、判断力と創意工夫、それらを発揮することによる技術開発力、製品開発力、生産管理力といったわが国ものづくり産業の「現場力」が決定的に重要であり続けることは間違いありません。激烈なグローバル競争の下で、わが国金属産業が「現場力」を強化し、新たな成長分野における競争力を確保するとともに、第4次産業革命において主導的役割を果たしていくためには、「人への投資」が不可欠です。
 金属労協では2016年闘争より、バリューチューンにおける「付加価値の適正循環」構築を掲げています。資源、素材、部品、セットメーカー、販売、小売、メンテナンス・アフターサービス、ロジスティックといったバリューチェーンの各プロセス・分野の企業で適切に付加価値を確保し、それを「人への投資」、設備投資、研究開発投資に用いることにより、強固な国内事業基盤と企業の持続可能性の確保を図っていこうとする取り組みです。
 バリューチェーン一体となった挑戦なしに、金属産業の新しい成長分野で競争力を確保することは考えられません。また第4次産業革命も、バリューチェーン全体で取り組むことなしに、効果をあげることはできません。2017年闘争では、取り組みの2年目として、具体的な実践活動に着手していきます。

非正規労働者の雇用の安定、処遇改善、「同一価値労働同一賃金」の確立

 労働力需給が逼迫する中で、非正規労働者の正社員への転換をなお一層加速させる必要があります。また、非正規労働者には正社員と同様、賃上げが行われていますが、もともと正社員との賃金格差が大きく、その抜本的な是正に向けた取り組みの前進が不可欠です。
 従って、2017年闘争においては、
*非正規労働者の正社員への転換促進。
*組合未加入の場合であっても、労働組合として、労使交渉や労使協議などを通じて、非正規労働者の賃金・労働諸条件の改善に取り組む。
*企業内最低賃金協定の取り組みの成果を特定最低賃金に波及させ、金属産業全体の賃金の底上げ・格差是正を図る。
などの取り組みを、一層強化していきます。
 金属労協の「第3次賃金・労働政策」では、「雇用の安定」と、「同一価値労働同一賃金」を基本とする均等・均衡待遇の確立を提唱しています。(本誌2016年10月25日号参照)
 まず、勤労者のニーズによる有期雇用、派遣労働の場合であっても、雇用の安定が図られる必要があります。
 「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇に関しては、性別、年齢、働き方、雇用形態、バリューチェーンなど、あらゆる勤労者の間で確立されなければなりませんが、「第3次賃金・労働政策」では、まずは非正規労働者と正社員に関して、その具体的な進め方を提案しています。政府は2016年12月、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を発表しましたが、「第3次賃金・労働政策」で掲げている、
*非正規労働者の賃金制度を整備し、賃金表を作成。習熟による職務遂行能力の向上を賃金に反映。
*高卒直入の正社員の初任給と、未経験の非正規労働者の入口賃金を同水準とし、その後の賃金水準が、知識・技能、負担、責任、ワーキング・コンディションを反映した合理的なものとなっているかどうか、つねにチェック。
*賃金、一時金だけでなく、退職金、労災補償、福利厚生、教育訓練など、労働諸条件全般にわたり均等・均衡を確立。同一の基準で給付すべきもので不当な差別的取り扱いがないかチェック。
という考え方に沿ったものと言えます。
 2017年闘争を契機として、具体化に向けた労使の検討着手が求められています。
 強固な日本経済を構築するためには、強固な金属産業が不可欠であり、強固な金属産業は強固な現場なしにはあり得ません。金属労協は、「強固な現場、強固な金属産業、強固な日本経済」をスローガンに、加盟5産別の強力な結束の下、2017年闘争を推進して参ります。

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