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新世代がいま届けたい現代短歌を読む⑦

短歌ムック「ねむらない樹」の特集「新世代がいま届けたい現代短歌100」を読みます。伊舎堂仁さん選歌の二回目です。

眼前に落ちて来たりし青柿はひとたび撥ねてふたたび撥ねず
/小池光『思川の岸辺』

がんぜんに
おちてきたりし
あおがきは
ひとたびはねて
ふたたびはねず

視野にある出来事を時間の流れに忠実に描写している。視線が上から下へはねてとまるまでを。一度だけはねる柿に何かを重ねているのだろうか。

恋人がすごくはためく服を着て海へ 海へと向かう 電車で
/吉田恭大『光と私語』

こいびとが
すごくはためく
ふくをきて
うみへ うみへと
むかう でんしゃで

海へ向かう恋人をどんな気持ちで見ているのか。海への繰り返しは反語のようでもあり、一字あけと電車で、は取り残された感覚もある。

さて恋と言へば私。アルコールランプに顔を寄せてゆくなり
/石川美南『離れ島』

さてこいと
いえばわたくし

あるこおる
-らんぷにかおを
よせてゆくなり

顔を寄せてゆく様子がアルコールランプの火の向こうに見えてくるようで、圧倒的に引き込まれてしまう。句点の間合いの取り方が絶妙。

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
/中澤系『中澤系歌集 uta0001.txt』

さんばんせん
かいそくでんしゃが
つうかします
りかいできない
ひとはさがって

世界とシステムを「理解したい」人がいて、アナウンスを聞いてもなお「下がらずにいる」可能性を感じさせる強さがある。

自転車の灯りをとほく見てをればあかり弱まる場所はさかみち
/光森裕樹『鈴を産むひばり』

じてんしゃの
あかりをとおく
みておれば
あかりよわまる
ばしょはさかみち

なだらかな起伏のあるとおくから自転車は向かってくる。そこに灯りの弱まるのを見て、坂道と気づく。灯りとあかりの対比がよい。

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