「風のメロディ」卓上噴水 短歌人2015年10月号

卓上噴水に掲載していただいた連作です。

「風のメロディ」
せせらぎの流れ等々力渓谷にシュポンと響くラムネの硝子
たくさんの浴衣の群れとすれ違う水族館のような交差点
悠久の宇宙の流れの一瞬を望遠鏡で捉える奇跡
ことばでは伝えられないものがありプラネタリウムに映る七夕
蝶々が音なく集う真夜中の街の外れの灯りの下に
芦ノ湖の風のメロディ聞きたくて遊覧船のデッキにのぼる
夕焼けのグラデーションを切り裂いて夜の気配が世界を覆う
来るものを拒むことなき真昼間の深緑濃き樹海に沈む
廃村の学校跡の地下深くタイムカプセル埋められており
息切らせ外階段を駆けるとき空が一段ずつ降りてくる
「手長いね」そんな理由で誘われてトロンボーン吹く十三の春
百年の歳月を経て残された音符の列が今よみがえる
待ち合わせの目印として一冊をあなたの好きな歌集を胸に
二段階右折のように待たされて行くも曲がるも心は揺れて
防波堤の先端まで行きましょう 大丈夫だよ手をつなぐから
教科書を昨日も今日も忘れてる机を寄せた席替えの後
ぬばたまの洗いざらしの君の髪を乾かす風の役目を受ける
雨の日を最後の逢瀬に決めたのは頬濡らしても強がれるから
葉脈を透かす日差しが穏やかに木々の緑を黄色く染める
バーで聴くジャズの枯葉にアドリブでグラスロックのはじける音が

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