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結局、指示なんてどうでも良い。Vol.9


月に1度、社長訪問という日があった。
社長が来て一斉にダメ出しをする。
白い巨塔でいう「総回診」だ。
店長も各チーフも緊張感がすごい。
バッチリ売場をつくるからほとんど怒られない。

でも自分はそういうのがすごく嫌いだから
いつも通りの売場でのぞんだ。
すると「こんなんじゃダメだ!お客様をもっと喜ばせろ!」「売場が汚い!」「お買い得がわかりずらい!」「お前のユニフォームはだらしない!」「なんだ?!その髪型は!」「売場のボリュームが足らない!」「欠品させてんじゃねー!」と叱られた。


高校野球で散々怒られることには慣れていたから精神的にはまったくびくともしなかった。純粋にすごく勉強になった。次の社長訪問までに普段の売場力をあげることに意識は向いていた。


ある日、卵売場の巡回で「この安売りの卵を全部やめろ」というとんでもない社長命令がでた。当時、卵は客寄せパンダのごとく1パック100円、いや88円、いや18円、いや8円だった。

店長や各チーフは社長が帰った後 グチ大会がはじまった。8円の卵がなくなったら集客にも大きな影響を与えるかもしれないから猛反対だ。言うことを聞かなくて良いとまで言われた。みんな社長の前では反対意見を絶対、言わないのに影でいろいろ言う。この不毛さは前の店で経験済みだった。


社長の指示に従うこと以外の選択肢は自分にはなかった。答えは簡単だ。社長が大好きだったから信じる。


たとえ反対だったとしても やると決めたら 1ミリも疑わず、一生懸命、全力でやり切る。ダメなら社長に笑顔でダメでした!って言おうと決めた。


それから自分の部門のアルバイトの後輩を集めてどうやったら8円の卵をカバーできるか何度も仮説をたてた。学校の勉強がはじめて人生で役に立った瞬間だった笑。


ありとあらゆる卵を食べた。味なんてわからなかったから1番気に入ったPE卵という卵を中心に据えると決めた。1パック248円の高い卵だった。安心安全でキレイな卵だった。どこのスーパーも安売り勝負の中、それを全面に出すことを決めた。
メーカーからいっぱい資料を取り寄せた。強みを抜き出して みんなで売場を考えて、みんなで手書きのPOPを書いて、写真を貼り付けて、声が枯れるまでマイク放送をした。昼飯と夕飯は毎日、たまご料理。写真を撮って現像して感想をつけて売場に飾る。手書きのPOPは統一感が一切なかった笑。売場でホットプレートで試食を何度も何度もした。できた売場はデザイン的には魅せれたものではなかったが 心からカッコいいとおもった。


そして風が吹いた。
近くの小学校と高校の給食のたまごがPE卵に乗り換えてくれた。そしてTVでPE卵が取り上げられた。次の日にたまたまPE卵を掲載したチラシが入り偶然とはいえ完全な追い風になった。


何より、先日のレジ上滝事件で味方になってくれたレジのパートタイマーの人たちがPE卵を買ってくれた。


そしてレジでの大宣伝だ。1ヶ月後、たまごコーナーの売上は前年比170%、店全体の売上も落ちなかった。赤字だったたまごコーナーは黒字化に成功した。


手柄は全部 社長だ。でもそんなちっちゃなことよりも自部門の後輩たちとの間にあった みえない壁が無くなったことが何よりも嬉しかった。そしてPE卵の売場コンテストで優勝して賞金が手に入り、みんなでご飯をたべにいった。


後輩たちのアニキになった瞬間だった。


もしあのとき ただ指示されて安売りの卵をやめるだけだったら、卵売場の売上どころか店全体の売上も落ちていたとおもう。指示を疑って半信半疑でやっていても同じことだっただろう。でも本当にゾッとするのは指示に反対して何もしなかったら何も変わらなかったということだ。


結局のところ 指示なんてどうでも良くてその指示で自分が何をするかにかかってると知った。


諏訪聖二 房の駅を立ち上げるまで
あと10ヶ月。

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