【おもしろ定理解説】ブラックホールはハゲている?【ブラックホール無毛/脱毛定理】
誰でも一度は耳にしたことのある有名な天体「ブラックホール」
この天体が題材となった面白い定理があることをご存知ですか?
その名も
「ブラックホール無毛定理」
脱毛定理、ともいわれることのあるこの定理、一体どんな定理なのでしょうか。一緒に学んでいきましょう!
ブラックホールとは?
ではまず、そもそもブラックホールって何なのでしょう?なんでも吸い込んでしまう怖い穴、なんていうイメージをお持ちの方も多いかもしれません。実際は、鬼や魔法使いみたいな何でもありの怖いものではなく、大きな枠組みとしては、基本的には太陽や銀河といった天体の仲間です。
ブラックホールをブラックホールたらしめるのはその巨大な質量・密度に由来する、光すら抜け出すことのできないほど強い重力です。
脱出速度:光すら抜け出すことができない?
光すら抜け出すことができないって一体どういうこと?と思いますよね。まずはイメージのために地球とボールで考えてみましょう。
みなさんが公園でボールを投げると、ボールは放物線を描いて数十メートル先に落下します。これはボールが地球の重力によって引き付けられるからですね。ニュートンさんが見つけた万有引力の法則です。
では、次にもっと速いスピードで投げるとどうなるでしょう?もうちょっと先で地面に落下しました。じゃあ、もっともっともっっっっと早いスピードで投げたら?
人力では限界がありますが、これをやってのけたのがみなさんご存知のロケットです。地球の重力を振り切るほどに加速することで地球に落下することなく、宇宙空間へ抜け出しました。
少し数式を使って考えてみると、エネルギー保存則から
$${ \frac{1}{2}mv^2 - G\frac{Mm}{R} = 0 }$$
$${ v = \sqrt{\frac{2GM}{R}} }$$
となるような $${v}$$ で放たれた物体は地球の重力を振り切って宇宙の彼方へ飛び立つことができます。これを脱出速度といいます。
地球の場合は 11.186 km/s でボールを投げ出すことができれば宇宙にボールを脱出させることができるそうです。
さて、では光速でも抜け出せない天体ということは$v = c$のときを考えれば良さそうです。このときの天体の半径は
$${ R = \frac{2GM}{c^2} }$$
となります。ある質量Mのときにこの値まで半径が小さい時、その天体は光すら抜け出すことのできないブラックホールとなります。また、この半径をシュバルツシルト半径と呼びます。
正確には一般相対論を用いた解釈が必要ですが、ニュートン力学でも同じ式が導かれます。ここまででざっくり、ブラックホールについて知っていただけたかと思います。
無毛ってどういうこと?
ではいよいよ本題に入っていきましょう。
天体が無毛ってどういうことでしょうか?
ここでも一旦普通の星から考えてみます。こちらの画像を御覧ください。
赤、青、白、オレンジ、いろいろな色の星がありますね。星の色の違いは温度の違いを表しているのでこうした温度の違いで星を区別することができることがわかります。
また、こちらの画像も
JWSTによって撮影された画像ですが、こちらも見た目に様々な違いがあるように見えますね。
これに対してブラックホールはどうでしょうか?
詳細は省きますが、ブラックホールには質量、電荷、角運動量しか特徴づける観測可能な量が存在しないことが一般相対性理論によって予想されています。
このように「質量」「電荷」「角運動量」以外の特徴が抜け落ちてしまっていることから天文研究者ジョン・ウィーラーが「ブラックホールには毛がない」と述べたことがブラックホール無毛/脱毛定理という名前に繋がりました。
突拍子もない名前ですが、一般相対性理論に基づいたブラックホールの特徴を掴んだ定理であることがわかりましたね。