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ワリエワ選手を襲ったドーピング疑惑と裁判所の判定について

 なんともモヤモヤした展開となった。
 ロシア女子フィギュアスケート期待の新星手カミラ・ワリエワ選手(15)のドーピング(禁止薬物使用)疑惑のことである。

 スポーツ仲裁裁判所(CAS)は14日、違反の有無には触れずに、ワリエワ選手の出場継続を認める異例の判断を下した。

 理由は主にふたつだ。ひとつは、15歳のワリエワ選手は世界アンチドーピング機構(WADA)の規定で「要保護者(protected person)」に当たり、証拠の基準や最低が低く定められていること。

 もうひとつは、12月にロシアで行なわれた検査の結果が五輪期間中に届いたことは彼女の責任ではなく、五輪期間中の検査では陰性だったことも鑑み、出場停止にすることは選手に「取り返しのつかない」損害を与える可能性があることだった。昨年12月にロシア国内の大会に参加した際の検査で彼女の検体から血管拡張に作用する禁止薬物のトリメダジジンが検出されたが、その結果が検査機関から届いたのは2ヶ月後の今月8日だったのだ。

 1984年にCASを創設した国際オリンピック委員会(IOC)は「CASの裁定は絶対であり尊重し従う」としながら、15日に行なわれる女子シングルでワリエワ選手が上位3位までに入った場合はメダルの授与式を行なわないとしている。ドーピング規則に違反についての結論が出ていないというのが理由だ。

 「うれしいが、精神的にとても疲れた。・・・できる限り調整し、結果を出したい」ワリエワ選手はロシア政府系テレビの取材で涙ながらに複雑な心境をそう語っている。歓喜の声をあげたロシア側とは対象的に、今回のCASの裁定について様々な方面から批判の声が上がった。

 全米反ドーピング機関(USADA)トップのトラビス・タイガート氏はロシアが「競技を乗っ取り・・・クリーンな競技者からチャンスを盗んだ」と厳しく批判した。一方、WADAのウィトルド・バンカ会長はワリエワ選手の関係者を徹底的に調査し、責任が明白担った場合には、責任者を生涯資格停止処分にすべきだと訴えた。

 「子供のドーピングは邪悪であり、許されるべきではない。医師やコーチらサポートスタッフが未成年者に運動能力が向上する薬物を与えていた場合、生涯資格停止となるべきで、個人的には刑務所に入れられるべきだと思う」

 前回の私の投稿「ワリエワ選手を襲ったドーピング疑惑の裏にあるもの」(2月12日)で詳しく書いたように、ロシアだけを槍玉に挙げていても問題は解決しない。国際スポーツの薬物汚染に背景には加速する国際スポーツの商業化があるからだ。

 今や五輪収入の大半が企業後援とテレビ放映権。人々の注目を集める金メダリストたちの経済的価値が高く、選手を利益追求の商品として利用するスポンサー企業、メディアにとっては勝つことがすべてとなってしまっている。それが組織的な薬物使用に拍車を掛けているのだ。

 IOCや各競技連盟が本気でドーピング撲滅を考えているのならメディアやスポンサーから入る巨額の資金をスポーツ浄化にもっと使ったらどうか。検査ももっと厳しく頻繁にすればいい。フィギュアスケートの五輪出場資格を16歳以上にするのはどうか。

 ともあれ出場続行が認められたワリエワ選手には今夜の女子シングルで圧倒的な演技を見せて欲しい。

                      (写真は北京、共同)


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