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バイデン大統領のアフガンからの米軍撤退は愚策、それとも賢明な選択?

 アメリカのいちばん長い戦争がようやく終結しました。

 9・11米同時多発テロからまともな戦略もないまま20年間も続いたアメリカの「テロとの戦い」は、掃討を目指したイスラム原理主義組織タリバンがふたたび復権するという皮肉な結果で幕を閉じたのです。「アフガニスタン撤退の完了を宣言する」と言った米中央軍のケネス・マッケンジー司令官の表情にはその悔しさを滲んでいました。

 それとは対象的に、アフガン地上部隊司令官とウイルソン大使を乗せた最後のC-17輸送機がカブール国際空港を離陸した首都カブールではタリバン検問所から祝砲が鳴り響き、市内を警備する戦闘員からも歓声があがったと地元メディアは伝えていました。

「我々は戦いに勝った。米国は負けたのだ」と、タリバンの指導者のひとりハジ・へクマートは英BBC放送のインタビューで意気盛んでした。

 さらに、米軍撤退直前にはアフガンで活動する過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS」)の超過激な分派組織ISIS-Kによる自爆テロ攻撃で170人以上が死亡する事件まで起き、13人の米兵が星条旗で覆われた棺で無言の帰国となりました。30日にはカブール国際空港に向けて5発のロケット弾が発射され,ISISが犯行声明を出しています。

 その状況をみていると、タリバンの復権によって他のイスラム過激派組織が刺激され国内外でのイスラム組織のテロ活動が活発化しそうな気配です。

◎まるで西部劇で復讐に燃える保安官のようなバイデン

 「よく聞け。我々は許さないし、忘れることもない。お前たちを必ず見つけだして代償を支払わせてやる」

 自爆テロ事件直後の演説で、犯人に対して怒りを露わにしたバイデン米大統領でしたが、すでに命運が尽きていました。

 面子を潰されたかたちの米軍はアフガン東部のナンガルハル州にあるISIS-Kの拠点を無人機で報復爆撃しましたが、6人の子供を含む9人の民間人が巻き添えで犠牲となったことが発覚してしまい、地元の反米感情を刺激する結果となりました。

◎ アフガニスタンは「帝国の墓場」

 そもそもアフガニスタンは、自由主義や共産主義などのイデオロギーの御旗を振りかざして武力で押さえ込もうという単純発想で制圧できる国ではないことは歴史が証明しています。そのためアフガニスタンは「帝国の墓場」とさえ呼ばれているのです。

 かつて古代ギリシャ、モンゴル帝国、ムガール帝国、大英帝国、そして屈強なソ連軍がこの地域に侵攻したが野望を果たせず撤退の憂き目に遭ったことからその名がつきました。世界最強の軍事力を誇るアメリカも20年の歳月と2500人近くの米兵の命を費やしたあげくに同じ轍を踏んでしまったのです。

◎ なぜ大国はそんな失敗を繰り返すのか

 なぜ大国はそんな失敗を繰り返しているのでしょうか。2001年の米同時多発テロ事件発生から間もない頃、パキスタンとアフガニスタン国境近くで会った故中村哲医師の次の言葉にその答えがありました。

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