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ハリウッドをリアリティ・チェックする

 英語でリアリティ・チェック(reality check)という言葉がある。本当のように見えることや聞こえる話しが実際はどうなのかを検証することだ。

 世の中にはウソが溢れている。例えば、巷では血液型がA型の人は神経質だが私のようなB型は楽天的だといわれている。しかし実際に調査をしてみるとそんなに簡単に性格を血液型で分類することは出来ないことが分かる。これがリアリティ・チェックだ。

 傍若無人で虚言癖のドナルド・トランプが米大統領に選ばれてホワイトハウスを恐怖の館に変えてしまった時は、とにかく虚言、暴言、妄言の連発で新聞もテレビもネットでもリアリティ・チェックに大忙しだった。そのための番組やサイトまで登場した。再選に失敗した後も自分がジョー・バイデンに負けた2020年の大統領選は「不正選挙だ!」としつこく主張しつづけている。何の証拠も提示せずに。さすがにメディアも食傷気味だ。

 それでは映画のシーンはどうだろうか。最近のコンピュータ・グラフィックスを駆使した派手なアクション場面がニセモノであることは誰の目にも明らかだろう。そう言うとすぐに「映画はフィクションなのだからそんな難癖をつけるような無粋な奴は映画を観なければいいだろう」という批判の声が聞こえてきそうだが、ちょっと待ってほしい。

 あえてお叱りをを覚悟でこのテーマを取りあげた理由は、米経済誌『FORTUNE』がコラムで意外な映画の場面をリアリティ・チェックしていたことを思い出したからだ。記事のタイトルはずばり「ハリウッド リアリティ・チェック(Hollywood Reality Check)」。

 まずは皆さんよくご存じの大ヒットアクション映画『ダイ・ハード』の一幕。主演のマッチョなブルース・ウィルスがなかなか死なないしぶとい刑事役を演じていた。その中で、ライターの灯りだけを頼りに空調ダクトを腹ばいで前進していくシーンがあった。しかし専門家によれば、そのシーンは不可能だそうだ。

 じつは、ほとんどのビルの空調ダクトの内部は断熱材が施されていて人が通れるほど広くない。さらに内部は映画よりもずっと汚くて、危ない。曲がり角には空気がスムーズに流れるように剃刀のように尖った金属片が設置されており、あちらこちらで釘も飛び出しているのだ。

 本当ならブルース・ウィルスは実物よりもっと小男で、全身血まみれになっていなければおかしいというわけである。

 次に取り上げられていたのは『オーシャンズ11』。ハリウッドを代表する豪華俳優が多数出演し、お洒落でちょっとコミカルな演出で世界的に評判となった作品だった。問題は、11人の犯罪スペシャリストがラスベガスのカジノの金庫室にある大金を狙う話しだ。ジョージ・クルーニーとマット・デーモンがカジノの金庫に入るため、エレベータの上からシャフト沿いに下に移動する場面だ。

 いかにもありそうで別のアクシ映画映画などでもよく見かけるシーンだが、これも実際には無理。なぜならエレベータシャフト内はエレベータの大きさに合わせてつくってあるため、実際には人がすり抜けられるような隙間がないからだ。いかにジョージ・クルーニーがハンサムであっても不可能なのである。

 さらに、スパイ映画でよく登場するのが網の目のように張り巡らされた防犯用のレーザー光線をアクロバッティックに身体をくねらせてすり抜けていくシーン。赤い光線に触れないようにして進む主役の演技に、見ている方が思わず固唾をの飲んだあの場面である。

 しかしこれも実際にはありえないのだそうだ。なぜならレーザー光線が見えるということは微粒子がレーザー光線を妨げている状態だから、直ちに警報がなってしまうとのこと。

 もちろん映画はエンターテインメントだから、事実と違うからといって目くじらを立てるつもりは毛頭無い。ただこういうウィットに富んだユーモラスなコラムを読んでいるとなるほどと膝を叩いてしまう。そのくらいの気持の余裕は持ちたい。

 しかしながら、世の中にはリアリティ・チェックが必要な腹立たしいことが山ほどあることだけは心に留めておいて欲しい。例えば、「百年安心」と銘打ったフィクションの年金制度や、税金の無駄遣いが目に余る政府、ワイロを受け取っていても平然と開き直る悪徳国会議員の面々。

 それに、掛け声ばかりでリーダーシップのない総理大臣などもリアリティ・チェックが必要な代表格だろう。

 

 

 

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