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女性宇宙飛行士の恋敵襲撃事件から考えたこと

 もう14年も前のことだが、米国の女性宇宙飛行士が痴情のもつれから殺人未遂事件を起こしたことがあった。彼女は高校を首席で卒業し、海軍大学院を経てNASAの宇宙飛行士に選抜されたスーパーエリートだった。そんな秀才が、好意を寄せていた同僚宇宙飛行士と親密だった女性を襲ったのだ。

 NASAの訓練施設があるテキサス州から犯行現場となったフロリダ州オーランドまで1500kmの道のりを自家用車をぶっ飛ばして先回りし、オーランド到着後に空港の駐車場で自分の恋敵だと思い込んだ女性に近づいて唐辛子スプレーを噴射して誘拐しようとしたのだ。途中で止まる時間を減らすために宇宙飛行士用のオムツまでつけていたという。尋常な精神状態ではなかったのだろう。折りたたみナイフや金槌も所持していた。

 逮捕されたリサ・ノワク被告(当時46歳)は殺人未遂容疑で起訴され、フロリダ州の裁判所から禁固2日、保護観察1年、50時間の社会奉仕活動の判決を受けている。エリートの転落という構図はたちまちマスコミの格好の餌食となった。

 しかし改めて振り返ってみると、あの事件が我々に教えたてくれたのは痴情のもつれだけでなくもっと別のことではなかっただろうかと思う。それは、どんなにテクノロジーが進んだ時代でも人間の性、本質は変らないということだ。

 だからこそ16世紀末から17世紀初頭に活躍したシェークシピアが描いた男と女、親と子、師匠と弟子などの愛憎が今でも人々の心を魅了するのである。

 先日、さる書物を読んでいたら日本が直面する問題は「ABCD」だという指摘があった。何のことだろうと読み進めてみると、Aは人口の高齢化(aging)、Bは官僚主義(bureaucratism)、Cは閉鎖社会(closed society)、そしてDは国内中心主義(domestic focus)だという。なるほどうまく当てはめたものだ。

 日本が「失われた10年」から復活できた理由もABCDで表わすことができる。それは、A=アメリカ、B=銀行の不良債権処理、C=中国経済の急成長、D=デジタル景気、である。誰が意図したわけでもあるまいが、こうしてアルファベットで覚えておけばいつでも思い出せて便利だ。

 もうひとつ近年のニュースで気になったことは木を見て森を見ない報道姿勢である。閣僚の相次ぐ失態、安倍・管政権の不手際、不人気に関しては万人の意見が一致するところだろう。しかし、そもそも政治はを雨後介しているのは何かという根本的な疑問に対する答えは少しも見えてこない。

 その疑問に少しでも答えたいという思いから以前に『もっと早く受けてみたかった国際政治の授業』(PHP研究所)という本を出版したことがある。戦争はなぜ起きるのか、世界政治を動かすものは何か、など世の中が目まぐるしく変化する今だからこそ知っておきたい7つの項目を分かりやすくQ&A形式でまとめたものだ。

 日々の出来事ばかりを追うジャーナリズムの世界に身を置いていると、とかく原理原則を忘れてしまう。そんな記者が記事を書き放送をしているのだから、時として根本的な理解がすっぽり抜け落ちてしまうことがある。それも人間の性といってしまえばそれまでだが、メディアの体たらくは国を危うくする。ああ、悩ましい。






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