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笑うに笑えない話(かいじん21面相)

「お兄ちゃん、いややね」妹からの電話。「なにが?」。「テレビで映像流れてる。似てると思えへん?」

やっとわかった。犯人が特定できず捜査が打ち切られたあの事件の犯人の後ろ姿の映像。菓子売り場の棚に青酸カリ入りのお菓子をおいたあの映像。確かに私の後ろ姿に似ていた。その野球帽にはジャイアンツのマークがあった。私は南海ホークスのファンである。野球帽はかぶらない。

当時キツネ目の男といわれたその犯人の人相書きが出回った。私の顔とは似ても似つかぬ別人だった。しかし研究室の学生の一人がその人相書きの男とよく似ていた。あの人相書きの出来栄えは警察でも疑問があったそうだが、ほかに手がなく発表されたと後に言われている。

「いやな人相書きが出回ってます。電車とかでじろじろ見られている気がする。いやですね」。私と一緒に研究室の新しい実験設備を制作した西宮に住む学生で早くからタイガースを見切ってジャイアンツを応援していた。

「先生、僕、昨日、あの時間にあのあたりを赤い車で走ってました。塾のバイトに行く途中のことでした」。阪急西宮駅付近を犯人が運転すると思われる赤い車が走ったと報道された、目撃されたその時間その場所を走っていたと研究室の別の学生が言うのだ。

ある日研究室を警察が訪問した。研究室にある和文タイプライターを見たいとのこと。もちろん求めに応じて和文タイプライターをみせた。ワープロがなかった時代、博士論文などの学位論文を清書するのに使っていたとても操作に手こずるものだった。どうも かいじん21面相 なる犯人は和文タイプライターを使って脅迫状を作成していたらしい。鑑定の結果、大学の和文タイプライターは使われたものとは違っていた。

この事件は迷宮入りし、誰が犯人かまだわかっていない。笑うに笑えない、そんな話を思い出した。

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