高齢者専門の弁当配達のアルバイト、それが僕の仕事だ。 福島あつし初写真集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』発売。
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高齢者専門の弁当配達のアルバイト、それが僕の仕事だ。 福島あつし初写真集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』発売。

写真家・福島あつしによる写真集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』を8月末に刊行いたしました。
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2020メインプログラムやNHK Eテレ ハートネットTV「配達弁当とおひとりさま」(2021年3月3日放送)で取り上げられ話題を呼んだ作品を収録する写真集です。

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高齢者専門の弁当配達のアルバイト、それが僕の仕事だ。

23歳のとき、情報誌で偶然目に止まった高齢者専門弁当配達のアルバイトを始めた福島。弁当店オーナーの勧めで配達先の独り暮らしの老人たちを撮影し始めたものの、当初は彼らの暮らしぶりに圧倒されカメラを向けることもできませんでした。

しばらくして関係性を構築するにつれ、年の離れた友人のように休日にも彼らの家を訪れて何気ない会話をし撮影を重ね、個展も開くようになります。しかし、次第に彼らのポートレートや住居を撮影すること、それらを展示し観客に見せるという行為について悩み葛藤を考えるようになり、アルバイトや撮影から離れてはまた戻ることを繰り返しました。

福島が届ける弁当をその場であっという間に平らげる人。福島のために毎日それとなくおやつを用意してくれる人。手紙の投函やおつかいを頼む人。次の配達があるのに楽しそうに話を続けて止めてくれない人。毎日弁当を届けても、「もう死にたい」と食べてくれない人……。
生きるという本能を支える食欲、それを支える配達弁当。福島は、何歳になっても体の底から湧き出す本能と間近に迫る死の気配を目の当たりにし受け止めながら、写真家として、一人の人間として10年の月日をかけて老人たちの生を記録し続けました。

■著者プロフィール
福島あつし
1981年神奈川県生まれ。2004年大阪芸術大学写真学科卒業。2004年から2014年まで神奈川県川崎市で高齢者専門の弁当配達のアルバイトをしながら配達先の老人の撮影を続ける。2019年、本書のもととなった作品〈弁当 is Ready〉にてKG+ SELECT 2019 Grand prixを受賞し、翌年KYOTOGARAPHIE 京都国際写真祭のメインプログラムにて同作が展示された。

内容紹介

「弁当屋でーす」
とにかく大きな声で、何回も繰り返し叫ぶ。近隣に自分の声が響き渡るが、そんなことを気にしている時間はない。返答がないのはいつものことだ。2階に上がってしまい降りてこられなくなっているのか、どこかに出掛けてしまったのか、はたまた部屋で倒れているのか……。
僕らの仕事には安否確認も含まれているので、直接弁当を渡さなければならない。

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雨の日も雪の日も欠かさずに首から提げていた一眼レフが会話のきっかけとなり、いつしか弁当を挟んでお客さんと冗談を言い合ったり話し込むことが増えていった。
「今日は時間指定のお客さんがいるから、急いでいるんです」と伝えても聞こえないふりをして懸命に話し続けてくれたり、簡単なおつかいや手紙をポストに入れてくれと託してくれることも嬉しかった。そして休みの日でさえも、気の合うおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行っては一緒に時間を過ごした。衝撃的だったお客さんたちの日常が、いつの間にか僕の日常にもなっていった。
自然と僕はシャッターを切り始め、フィルムにはお客さんと僕の日常の光が焼き付いていった。

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配達のない日はフィルムの現像、プリントに没頭した。けれど、写真をめくっていくうちに今まで気にもかけていなかったお客さんたちの部屋の些細な乱れや、衰えた身体の細部がやたらと目につきはじめ、撮影時のぬくもりは指先をすり抜けていってしまう。ひたすら事実を提示し続けている写真と自分との距離が少しずつ離れていき、無意識のうちにふたをしていた違和感が噴出する。
世の中や自分自身をあきれるほど都合よくしか見ることができない僕の手元で、L版プリントは容赦なく写真で在り続けていた。

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お客さんが僕をじっと見つめている。ベッドで横になったままの被写体。カメラを構え、見下ろす撮影者。その優劣は完全に逆転してしまっている。たまらずレンズが幕を下ろす。
お客さんたちは本人の意志とは関係なく、強烈に何かを語ろうとしている。僕はそれを汲み取るどころか圧倒され、受け止めることすらできないでいた。
今の僕には到底向き合える世界ではない。脳の血管が頻繁に引きつりを起こして、こっそり検査にも行った。撮影を中断して配達に専念すれば楽になるなんていうことは、自分でもわかりきっている。
しかし、もう手遅れだった。
見てきた景色、感じてきた想い、葛藤、混乱を自分の外に吐き出さないかぎり、自分を保てない。
もう、とことんいくしかなかった。

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生き続けるという本能の強さを体現しているお客さんたち。ファインダーを覗きながら、いつしか僕はその姿を美しいと感じるようになっていた。だからこそ僕はこの仕事になんとかしがみついてこられたのだろう。

僕にとってお客さんたちの姿はいつか訪れるかわいそうな姿では決してなかった。弁当を配達しながら、活力をもらっていたのは僕のほうだった。

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■出版記念展開催中
写真集の出版を記念して同名の写真展がIG Photo Galleryにて開催中。会場では写真集を先行販売しています。

「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」展
会場:IG Photo Gallery 東京都中央区銀座3-13-17 辰中ビル3F(最寄り駅:東銀座)
会期:8月10日(火)‐9月25日(土)
*展示替えあり。8月24日(土)より後期開始
時間:12:00~20:00(最終日は18:00まで)
休廊:日・月・祝
https://www.igpg.jp/index.html

■書誌情報
発売日:2021年8月下旬
著者:福島あつし
書名:『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』(略して『ぼく弁』)
編集:森かおる
寄稿:タカザワケンジ
翻訳:ミヤギフトシ
デザイン:樋口裕馬(yumore / inhere)
判型:A4変/上製本
総頁:160頁
定価:3,600円+税
ISBN 978-4-86152-855-2 C0072


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「当代の芸術の存在感を顕す」をモットーに、現代美術、写真集をはじめ、様々なアートブックを刊行しています。 http://www.seigensha.com/