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弱者の戦略:インドネシアのとある島での出来事

ランチェスター戦略を考える中で、これまでの人生、常に弱者の位置からしか、モノゴトを見れていなかったので、色々と考えさせられるものがあります。

まず仕事では、サラリーマンの身ではありますが、面白いぐらいに弱者の立ち位置を味わってきたので、ちょっと振り返ってみたいと思います。


〇圧倒的に弱者



もう10年以上前の前職でのお話しです。当時、私はシンガポールでの販売子会社に駐在し、販売の責任者を担っていました。扱っていた商品は小型のエンジン。建設機械、農業機械、発電機等の産業機械から小型のボート迄、ありとあらゆるものに搭載されていました。

ここでの競合は、日系メーカーで3社、あとは数百社にも渡る有象無象の中国メーカー(コピー商品含め)という状況。シェアで言うと、競合日系メーカーのA社が30%を占め、圧倒的な強者である一方、前職のB社は数パーセント程度であり、弱者として位置づけられていました。

ランチェスター戦略では、3社以上の競争で、約4割のシェアを取れていれば独走状態とされますが、上記の前職のケースでいうと、ブランドイメージを加味すれば、競合のA社はほぼ敵なしと言った状況だったと思います。

加えて、このビジネスにおいては、自動車販売台数のように、公の機関に登録されれば、総需要やセグメント別の台数が判明すると言った類のものではなく、外部の情報機関や輸入台数、または顧客からヒアリングした情報等を頼らざるを得ない状況でした。

例えば、インドネシアのある地方都市の新規大手ディーラーに聞き込みを行い、そのディーラーでは競合のエンジンを毎月40フィートのコンテナを2本購入し、サブディーラーにも供給している、という情報を掴めれば、40フィートのコンテナ=500台のエンジンが搭載される場合、毎月1千台、12ヶ月で12千台、という規模感を掴むことができ、その地方都市に同じような規模感のディーラーがあれば、恐らく大体年間10千台ぐらい購入しているんだろうな、という事が推測できるわけです。これをかき集めて、市場規模を予測していくイメージです。

市場規模を掴むにも、このようにプリミティブ(原始的)なやり方でしたが、だからこそ、顧客の所に足を運び、顧客の話しを聞き、まずは情報の精度を確かめると言ったステップが大事でした。当時は謎解きのような感覚で「真実は一体何なんだ?!」と、ひとつひとつのパズルのピースを組み合わせながらやる作業が、今思えば結構面白い事をやっていたなーと思うばかりです。

話しを戻しますと、当然ながら、競合A社はシェアで表されているように、4P視点で見ても、①Product=製品ラインナップ数、②Price=コスト競争力(規模の経済が働くので)、③Place=ネットワーク数(ディーラー数)、④Promotion=広告宣伝、全ての項目で、弱者である前職のB社を上回っている状況。

そんな圧倒的強者に対して、同じような売り方で真向勝負をしても勝てないわけです。更にここまでのシェアの開きがあると、エンドユーザーであるお客様からは、「そんな商品のブランドなんて聞いたこともない、中国メーカーのコピー商品じゃないのか?」というコメントも多く聞かれ、そもそも認知度の部分で全く勝負になっていませんでした。

モノの流れは、①工場 ⇨ ②メーカー ⇨ ③ディストリビューター ⇨ ④ディーラー ⇨ ⑤エンドユーザー という感じなので、そもそもエンドユーザーが、その商品の事を知らなければ、どんなに優れた商品であっても、ディーラーで購入するという事に至らないわけです。また、ディーラーとしても、ブランドバリューがある競合のA社の商品を販売していた方が、遥かに楽に販売ができ、商品説明もすることなく、エンドユーザーが勝手に買っていってくれるという状態になっていました。


〇実施した弱者の戦略とは?



そんな厳しい状況下で、前職の商品が機能的価値で勝っていた点は、製品の耐久性と多少パワーが勝っていた事。
で、何をやったかと言うと、上記の商品価値を梃に、徹底的に局地戦(特定のエリア)と接近戦(エンドユーザーとの接点)で勝負を仕掛けました。
弱者戦略の王道ですw

インドネシアの大都市であるジャカルタ等、競合日系メーカーA社が好むような需要の多いエリアをあえて避け、A社の販売やサービスがあまり行き届かなそうな地域を見定め、インドネシアのある島の北側のエリアに絞り込みました。

まずは、商品とその価値を知ってもらうために、このエリアでのエンドユーザーに向けて、徹底的に現地で商品デモをしまくりました。本来であれば、こういった活動は、現地のディストリビューターやディーラーがやるべき仕事なのですが、あえてここにメーカー側の人間も加わる事で、エンドユーザーと直接接点を持ち、またノベルティーを渡す等して(その当時はまだスモールギフトが役立っていた)、顧客とのラポールを築く事を心掛けました。

そして、決して一回限りの売り切りではなく、「きちんとアフターサービスも見ますよ」という事をアピールすることが、とても重要。

この点を含め、メーカー、ディストリビューター、ディーラーでタッグを組みながら定期的に訪問し続けた事で、信頼を勝ち取る事ができた結果、その街というか村でのエンドユーザーの間で良い口コミが広がり、新規購入(競合A社エンジンからの載せ替え)が瞬く間に増えていき、オセロの駒がひっくり返って行くかのように拡販する事ができたのです。

あまり詳細には書きませんでしたが、当時のインドネシアの弱者の戦略を振り返った時に、頭に思い浮かんだ内容でした。

〇まとめ


上記は、費用対効果から見れば、時間もお金もかかる行動だと思います。
とはいえ、確実に将来への種まきにつながる行動であり、ディストリビューターにただ通常通りに商品を卸しているだけでは、何も生まれなかったと思います。

どんなビジネスにおいても、広範囲に総取りで商売をしかけてくる強者に対し、弱者は強者の隙を見つけ(そのためにも市場・競合分析は最低限マストで必要)、エリア・ユーザー・商品等、何かにフォーカスをし、全集中で取り組む事が重要だと改めて気づかされました。

ではでは、今日も一日頑張って行きましょう!

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