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アメとムチによるEVシフトを推し進める!(中国自動車市場#2)

中国政府は、いわゆるアメとムチの政策を使い分け、需要と供給の両サイドでEVシフトを推進してきました。今回、その中身をざっくり見ていきたいと思います。

■アメの政策(需要喚起)
① 財政:補助金政策、購入税免除
② インフラ:充電網の整備
③ 行政:NEV専用ナンバープレート・規制緩和

■ムチの政策(供給強化)
④ CAFC 燃費規制: Corporate Average Fuel Consumption
⑤ NEV規制(生産義務)


①補助金政策、購入税免除

まず、需要サイドから見ていきましょう。
個人購入が、北京、深圳、上海等の5都市でNEV補助金対象となったのは2010年からでした。中央政府の補助金制度に合わせて、地方都市の政府も、補助金を別途支給する形で実施されていました。

補助金対象車種は、BEV、PHEV、FCVの3つ。電動航続距離に対して補助金の額が変わる仕組みになっています。中央政府から支給される台当たりの補助金額自体は、年々段階的に引き下げられ、補助金の最低支給基準も段階的に引き上げられています(2022年では最低基準が300キロ以上)

2022年では、個人が航続距離300キロ以上-400キロ未満のEVを購入する場合、補助金額は9,100元(約17万円)と、前年比で30%削減されています。

上記の補助金に合わせて、NEV車にかかる自動車購入税も免税される仕組みです。

こうした中央政府及び地方政府が支給した補助金や購入税の免税による施策は、NEV市場育成のひとつの起爆剤となったんですね。


② インフラ:充電網の整備

NEV車には当然充電網の拡充が不可欠であり、インフラ整備においてもEV普及に関わるボトルネックなポイントとして、中国政府は整備に力を入れてきました。充電インフラ普及の目標として、以下の目標を立て、NEV車保有台数500万台に対応可能なインフラを構築する計画を打ち立てました。

2015年(NEV保有台数:50万台前提)
・充電ステーション : 0.4万
・充電スポット        :5.0万
       合計 :5.4万

2020年(NEV保有台数:500万台前提)
・充電ステーション:1.2万
・充電スポット        :480万
       合計:481.2万

※ちなみに、21年9月時点の情報ですが、NEV車保有台数:678万台に対し、充電スタンド:222万台と、NEVの普及速度に追い付いていないのが現状。(NEV車に対する充電スタンド数の割合が、近年では3台:1台という感じです)


③ 行政:NEV専用ナンバープレート・規制緩和

中国の大都市で渋滞緩和の対策として設けられたナンバープレートの所有制限。現在、ナンバープレート規制は、8都市(上海、北京、貴陽、広州、天津、杭州、深セン、海南)で導入されています。

8都市でのナンバープレートの制限方法は、各都市でバラバラとなっています。たとえば、北京では抽選制度になっており、その倍率がめちゃくちゃ高いことで有名です。2020年の個人向け普通車に割り当てられる北京ナンバーの倍率は、551倍だったそうです。(当たる気がしないですね)

一方、上海や深センでは競売制度。当然落札価格はめちゃくちゃ高くなり、2021年のとある月の上海プレートの価格は、92,000元(約150万)とのことで、もはやコンパクトカーよりも高い値段ですね。

このように、ナンバープレート規制都市では、個人が普通に車(ガソリン車含むハイブリット)を購入する場合、ナンバープレートを手に入れるために四苦八苦してしまう状況に陥ります。

その状況に対するアメ対策として、NEV車購入者に対して、ナンバープレートが別枠で準備され、上海等ではナンバープレートを無償で発行する等の優遇措置が取られています。

こうして、半ば強制的に見事巧みなNEV車購入インセンティブを、中国政府主導で仕掛けたわけですね。(日本では、絶対にマネできない施策…。)


④ CAFC 燃費規制: Corporate Average Fuel Consumption

続いて、供給サイドです。

CAFC(カフシーと呼ばれています)とは、2018年に実施された完成車メーカー側に課された罰則付きの燃費低減規制です。

具体的には、ガソリン消費1リットル当たりの平均走行距離を、2018年に16キロメートル、2020年に20キロメートル、2025年に25キロメートルに引き上げることで、完成車メーカーに省エネ技術の高度化を要求するものです。

BEV生産にて燃費規制に対応させることが目的となっていますが、ガソリン車の生産規模を考えれば、全数BEV生産のみで対応することは、現実的ではなく、エンジン排気量の小型化等で省エネの工夫をせざるを得ない状況となっています。

目標未達分は、不足燃費クレジットとして計算され、完成車メーカーは、以下3つの方法で対応を迫られます。

  • 関連企業(25%以上の資本関係)からの余剰燃費クレジットの譲渡

  • 自社NEVクレジットで賄うか

  • 他社からのNEVクレジット購入で埋める

2020年では、対象完成車メーカ117社の内、71社が燃費目標未達となり、簡単に対応できない規制となっています。

⑤ NEV規制(生産義務)

2019年からNEV車の生産・輸入台数の10%相当分(21年では14%)を「NEVクレジット」として計算し、これもまた罰則付きとなり、完成車メーカーに対してNEVシフトを推進させました。EVでの航続距離の性能評価に基づいたNEVポイントと生産台数によって、クレジットの計算が行われます。

クレジット未達の場合、他社の余剰「NEVクレジット」を購入する方法しかないことが、CAFCとは違う点です。

計算方法としては、2021年で、仮にガソリン車を年間200万台生産するメーカーは、クレジットとして28万ポイント(200×14%)となります。

航続距離535kmのEVを生産する場合、このEV1台当たりのポイントが最大3.4Pとなり、8.2万台(×3.4P)のEVを生産することで、ガソリン車分の28万ポイントを賄う形になります。
(PHEV生産の場合は、EV3.4P→1.8Pと少なくなり、200万台のガソリン車のポイント分を賄うには、PHEVを17.5万台生産しなければならず、EVに比べて多くのPHEVを生産しなければならない)

このように、CAFCとNEVを合わせて、ダブルクレジット政策と呼ばれ、供給サイドでもEVシフトを強烈に迫られる形となったわけです。


ではでは、今日も1日頑張っていきましょー!

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