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自殺か性別移行か:性別違和を抱える子どもの唯一の選択肢なのか?

自殺か性別移行か:性別違和を抱える子どもの唯一の選択肢なのか?
2017年9月8日投稿
by J. Michael Bailey, Ph.D  and Ray Blanchard, Ph.D
 
この記事は、4thwave Now のサイトに掲載されたベイリー、ブランチャード博士によるものです。この組織は2015年に設立をされ、性別違和を抱える子どもたちの医療化に異議をとなえる親たちが原動力になって力強い活動を行っています。両氏はこの論文とともに、関連する「性別違和は一つではない」という論文をこの組織に寄稿しています。


マイケル・ベイリー ノースウェスタン大学教授(心理学)
著書『The Man Who Would Be Queen』は、生得的な男性に見られる2種類の性別違和について読みやすい科学的説明をしており、無料でダウンロードできる。
レイ・ブランチャードは1967年ペンシルバニア大学で心理学の学士号を、1973年イリノイ大学で博士号を取得。1980年から1995年までトロントのアディクション・精神衛生センター(CAMH)の成人性自認クリニックの心理学者、1995年から2010年までCAMHの臨床性科学サービス責任者を務めた。



 
自殺を防ぐために性別移行が必要だと、性別違和の青年や精神衛生の専門家によって主張され、それは、ますます一般的なものになっている。リーラ・アルコーンの悲劇的な事件は、しばしば政治的スローガンとして引用される。「性別移行せよ、さもなくば!」。 リーラ(もともとはジョシュア)は性別違和の生物学的男性で、17歳のときに、自分の性転換を支援しなかった両親を責め、キリスト教の修復療法を強要されて自殺した。その後、性別違和に対する「転向療法」を禁止する様々な「リーラ法」(中略)が全米で成立、あるいは検討されている。 
 
子どもの自殺は、すべての親にとって悪夢である。もし我が子が性転換と自殺のどちらかを選ぶとしたら、私たちは間違いなく性転換を選ぶ。しかし、最高の科学的証拠は、自殺を防ぐために性転換が必要でないことを示している。
以下に、より詳細な小論文を提供するが、その要点は以下の通りである。
1)自殺すると脅す子ども(最も一般的なのは思春期の子ども)は、自殺すると脅さない子どもよりも自殺する可能性は高いが、自殺することはほとんどない。
2) 自殺を含む精神衛生上の問題は、ある種の性別違和と関連している。しかし、性別違和の人たちの自殺はまれである。
3) 性別移行によって性別違和を抱える子供が自殺する可能性を減少させるという説得力のある根拠はない。
4) 自殺傾向を含む精神衛生上の問題は、性別違和感によって引き起こされ、その逆の見方(例えば、精神衛生や人格の問題が原因で、性別違和を経験しやすくなる。)が引き起こすのではない。今、このような考え方が一般化し、政治的に正しいとされる。しかし、これは証明されておらず、真実である可能性と同じくらい誤りである可能性が高い。

自殺 vs 自殺傾向 vs 非自殺性自傷行為
自殺はまれな出来事である。2014年の米国では、10万人中約13人が自殺している。自殺は中年の白人男性に最も多く、知られている自殺者10人のうち約7人を占めた。
少なくとも4種類のタイプを区別しておくと便利である。既遂型自殺とは、自殺による死を意味する。自殺傾向とは、自殺を考えること、または自殺を試みることを意味する。非自殺性自傷行為とは、死ぬつもりがないのに自分自身を傷つけること(多くの場合、皮膚を切りつけること)。最後に、精神疾患には、うつ病、行為障害、人格障害(境界性人格障害など)、統合失調症など、さまざまな疾患が含まれるが、これらの中には、自殺や自殺傾向と特に強く関連するものもあれば、自殺以外の自傷行為とより強く関連するものもある。
もちろん、私たちが最も心配しているのは自殺である。しかし、それは非常に稀であり、また死者の自殺の動機について知ることはしばしば困難であるため、特に研究が困難である。性別違和と自殺に焦点を当てた研究は、性別違和と自殺傾向または非自殺の自傷行為に焦点を当てた研究より少ない。自殺傾向の研究は自己報告に頼らざるを得ず(たとえば、誰かが自殺を考えている、あるいは考えていた、と報告しなければならない)、これは結果の解釈を複雑にしている。(自殺願望がなくても、ある人はある時、特に自殺願望があると言いやすいのかもしれない)。また、性別違和には複数の種類があり、私たちは3種類あると考えている。(この点については別の機会に述べたいと思う)。さらに、すべての種類がもつリスクは同じであると考えるべきではない。

科学的文献
私たちの目的は、利用可能なすべての研究を吟味することではなく、最良の証拠に焦点を当てることである。より大規模で代表的な研究、そして最も重要なのは、自殺既遂の研究であり、これらは最も有益である。

既遂の自殺者の研究
自殺と性別違和に関する2つの大規模な系統的研究が発表された。1つはオランダ、もう1つはスウェーデンの研究である。注目すべきは、両国とも社会的にリベラルな国であり、両研究ともかなり最近(1997年と2011年)実施されたものであることである。両研究とも、国立ジェンダー・クリニックで医学的治療を受けた患者に焦点を当てたものである。これらの患者はすべて、医学的な性転換を始めたか、完了したかであり、私たちは彼らを「トランスセクシャル」と呼んでいる。(私たちが存在すると考えている3つのタイプの患者が、それぞれ何人いたかはわからない)。
 オランダの研究の自殺データは、異性間ホルモン剤による治療(多くは手術)を受けた男性から女性へのトランスセクシャル(生得の男性から女性に移行した人)である。男性から女性へのトランスセクシャル816人のうち、13人(1.6%)が自殺で命を絶った。これは予想の9倍であった。それでも、このサンプルでは自殺はまれであった。スウェーデンの研究では、自殺の割合がさらに大きくなり、トランスセクシャルでは、非トランスセクシャル対照群の19倍であることがわかった。それでも、自殺したのは324人のトランスセクシャルのうち10人(つまり、グループの3.1%)だけであった。繰り返すが、やはり稀なことである。なお、どちらの研究も、性別移行した性別違和の人々を対象としたものである。以上を受けて、その結果から移行によって治癒効果があったとはほとんど言えない。
 オランダとスウェーデンの研究は、小児期に性別違和が始まったかどうかわからない成人を対象としたものである。小児期に発症したケースだけに焦点を当てた研究は発表されていない。しかし、心理学者のKenneth Zuckerは、Centre for Addiction and Mental Healthで治療された150人以上の小児期発症例について、思春期や青年期にかけて追跡調査している。彼は、自殺の結果データを(私信で)惜しげもなく我々に教えてくれた。その150例以上の症例のうち、自殺したのはたった1例であった。しかも、Zucker博士の理解では(親の報告に基づいて)、この自殺は性別違和によるものではなく、むしろ無関係の精神疾患によるものであったとのことである。一方では、150件のうち1件の自殺は、偶然に予想されるよりも多い。一方では、性別違和の子どもや成人の間ではまれな結果である。

自殺と非自殺性自傷の研究
自殺をする人は、その前に自殺願望があった。しかし、自殺願望のある人の多くは、自殺をしない。「自殺傾向」という言葉は、「自殺を意図すること」と「自殺を考えること」の両方を含む、必然的に曖昧な言葉であり、その程度の幅は広い。さらに、ほとんどの研究では、過去または現在の自殺の意思を偽って報告した人も「自殺志願者」に含まれる。
なぜ自殺願望があると虚偽の申告をするのだろうか。ひとつの理由は、他者の行動に影響を与えるためである。たとえば、自殺願望があると言えば、普通は注目され、同情される。自分の感情やニーズの深刻さを他人に印象づけるための方法となりうる。この可能性は直接的には研究されていないが、自殺を報告することが社会的大義を推進するための戦略である場合もある。
米国疾病管理センター(CDC)のデータによると、意図的だが致命的ではない自傷の割合は、思春期にピークを迎え、女子では10万人あたり約450人、男子では250人弱とされている。これらの割合は、アメリカの年間自殺者数(10万人あたり13人)よりもはるかに多い(自殺は青年よりも成人の方が多いことを忘れてはならない)。ですから、思春期の自傷行為のほとんどは、自分の命を絶つことを目的としていないと考えるのが妥当だ。私たちは、親が子どもの自傷を無視することを勧めているのではない。自傷行為には、純粋な自殺の意図以外の動機があることが多いということを言いたいだけである。
 
性別違和のある成人の自殺率が高いことを考えると、自殺傾向(自己申告による自殺願望や過去の「自殺未遂」)もトランスジェンダーで高いことは驚くにはあたらない。ウィリアムズ研究所が統計的に分析した最近のある調査では、トランスジェンダー(trangendered)の成人の41%が自殺未遂をしたことがあると報告されており、対照群の割合は4.6%であった。しかし、この調査は便宜的なサンプリングで回答者を募集したため、自殺未遂の報告率が膨らんでしまった可能性がある。さらに、この調査の著者は、次のような(立派な)免責事項を記載している。
 
しかし、米国の一般人口から得られたデータでは、自殺未遂者と自殺で死亡した人の間に明確な人口統計学的な違いがあることが示されている。自殺死亡者の約80パーセントが男性であるのに対し、自殺未遂者の約75パーセントは女性である。青年期の自殺率は10万人あたり約7人と比較的低いが、自殺未遂者はかなりの割合を占めており、自殺死亡者1人あたり100回以上の未遂が行われていると思われる。対照的に、高齢者の自殺率は10万人あたり約15人とはるかに高いが、自殺を完了するごとにわずか4回の試行を行うだけである。一般に、自殺未遂はその後の自殺行動のリスクを高めるが、自殺未遂者を5年から37年追跡した6つの研究では、サンプルの7~13%に自殺による死亡が確認されている(Tidemalm et al.) こうした一般集団のパターンがトランスジェンダーにも当てはまるかどうかはわからないが、裏付けとなるデータがない以上、トランスジェンダーの成人の自殺未遂に関する知見を外挿し、この集団の自殺既遂に関する結論を暗示しないよう特に注意する必要がある。

 つまり、重要なのは、著者が、自殺と自殺未遂はまったく異なるものであり、彼らが研究したのは自殺未遂であることを認識していることだ。彼らのグループにおける既遂の自殺は、ずっとずっと低いものであろう。
性別違和を抱える子供の自殺率の上昇は、ケニス・ザッカー(Kenneth Zucker)の研究グループによる最近の研究でも、親から報告されている。
「トランス・ピープル」の非自殺的自傷行為に関する系統的検証では、特にトランス男性(すなわち、男性に移行した出生時女性)の割合が高いことがわかっている。最も多く挙げられている方法は、自傷行為だ。(自傷は境界性パーソナリティ障害の一般的な症状であり、これもトランスジェンダーではない女性の方が男性よりはるかに多い)。


結局のところ、性別移行が答えなのか?

心理学者のクリスティーナ・オルソン(Kristina Olson)は、ごく最近の研究で、性別違和のある子どもの社会的移行を支援した親が、その子どもは性別違和のないきょうだいと同じように精神的に健康であると評価したことを報告している。さらに、両親の報告によると、社会的に移行した性別違和の子どもたちは、無作為に抽出したサンプルと比較しても、精神的に健康でないとはいえないことが示されている。
 この研究は、上で検討した知見を否定したり、説明したりするのには不十分すぎる。第一に、73人の性別違和の子どもを含む比較的小規模なものであったことである。第二に、家族が便宜的なサンプリングで募集されたため、様々な選択バイアスが生じる可能性が高くなったこと。例えば、特に精神的に健康な家族がこの種の研究に志願している可能性がある。第三に、評価は簡単な観察法( a breif snapshot)であった。つまり、社会的に移行した性別違和の子どもは、性別違和に悩む子どもと比較して、その簡単な観察法なら、よりうまく対応すると考えられる。(ほとんど疑いの余地はないが、性的違和の子どもは、社会的に移行することを許されると、最初のうちは幸せなのだ。)幼い性別違和感のある子どもたちは、性別の悩みは別として、それほど多くの心理的・行動的問題を示さない。前述のケネス・ザッカーの研究グループの研究では、自殺を含む精神衛生上の問題は年齢とともに増加することが示されている。おそらく、オルソンの参加者ではこのようなことは起こらないだろうが、しかし、何も起こらないと決めるには時期尚早だ。

なぜ性別違和が、自殺を含む精神的な問題と結びつくのか?
 
私たちにはわからない。現在の常識では、性別違和が性転換の必要性を生み出し、それが実現しなければ、すべての問題を引き起こすとされている。これは、移行を支持する臨床家や活動家にとって都合のよい立場だ。しかし、彼らはそれが真実なのかどうか知らないだけなのだ。さらに、精神疾患を科学的に研究してきた私たちの過去の経験からも、性別違和に関する具体的な知見からも、従来の常識が正しいということはできないだろう。
例えば、リーラ・アルコーンの自殺は(多くの自殺と同様に)悲劇的だったが、彼女には明らかに性別違和に起因しない問題があったようだ。彼女はTumblr(ブログ型SNS)にジョシュア(男性としてのアイデンティティ)として投稿していた。

「私は文字通りいやな女だ。私の人生では、つまらないけどそれほど悪くもないことが起こるのだけど、私がすることは、周りの人に文句を言ったり、自殺すると脅して、私をかわいそうに思わせることばかり。だから、彼らは私を人間以下の存在、子供のように世話をしなければならない存在として見ている。それで、相手が私の期待に一つ一つ応えてくれないと、私は相手に暴言を吐き、私の面倒見るのにふさわしい人間ではないと思わせるのだ。私は自分に欠点しか見つけられないから、周りの人の中に欠点を何とか見つけだして、その欠点を利用して私が一歩上手に出るんだ。相手に嫌な気持ちにさせて、自分をよく見せるんだ。」

精神疾患と人生経験のきわめて高度な因果関係の分析により、物事は従来考えられるよりも複雑であることが常に示されてきている。例えば、うつ病は確かに不利な人生経験によって引き起こされるが、うつ病になりやすい人は、自らストレスとなる人生経験を生み出す傾向がある。つまり、うつ病の原因は人生経験だけというような単純な話ではない。また、うつ病は遺伝的な影響もかなりある。同様に、境界性パーソナリティ障害(BPD)の女性は、幼少期の性的虐待(CSA)を経験している傾向があると報告されていて、多くの臨床家や研究者は、CSAがBPDを引き起こすと想定している。しかし、原因の方向がそうであると決めつけることはできず、別の可能性も排除してはならない。最近のより精密な研究では、実際にはCSAはBPDの原因にはならないことを示している。

性別違和と様々な精神疾患(自殺を含む)、そして既遂の自殺との関連性を理解するための研究には時間がかかると思われる。しかし、性別違和を抱える人の性別移行を遅らせることがすべてのトラブルの原因であるという従来の通念を疑問視する理由はすでに多くある。性別違和であった成人の性別移行者(トランスセクシュアル)の自殺率が上昇していることは、すでに述べたとおりである。性別移行によって彼らの自殺を防げなかったことは明らかである。自殺(および自殺の脅し)は社会的に伝染する可能性がある。したがって、社会的伝染は、自殺と性別違和自体の両方において重要な役割を果たすかもしれない。自閉症は、性別違和と自殺傾向の両方の危険因子である。我々の知る限り、性別違和が自閉症を引き起こすと考える者はいない。

結論
 性別違和感のある子どもを持つ親は、常に子どもにとって最善のことを望んでいるが、そのような親たちは、直ちに性別移行を行うことが最善の解決策であると結論づけたりしない。子どもの自殺の可能性を誇張したり、自殺や自殺願望は親のせいだと断言したりすることは、親に対して、何の利益ももたらさない。



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